ルーツは星新一。Z李が留置場で綴った30のショートショート!|Z李

ルーツは星新一。Z李が留置場で綴った30のショートショート!|Z李

本日11月19日、Z李さんの新作『君が面会に来たあとで』が発売されました。

実はZ李さんは、星新一さんの大ファン。

子どもの頃に初めて星新一作品を読んだときの衝撃を胸に、アンダーグラウンドな世界を、恋愛・ミステリー・SFなど多彩な角度から描きました。

90万人を超えるフォロワーを持つZ李さん。Xでも度々話題となるワードセンスと観察眼が存分に発揮された珠玉のショートショート集です。

【収録内容】

◎歌舞伎町・半地下の裏カジノは、要人たちも通い詰める“闇の社交場”(『東九歌舞伎町タワーアンダーグラウンド』)

◎恐怖の“勘繰り”地獄。覚醒剤中毒者の頭の中(『日曜日ダルク十六時』)

◎年間2000件の捜索願。歌舞伎町を取り巻く闇の正体とは(『チャイエスの客が消えた』)

◎新宿の路地裏のペットショップ。裏口では“人間”を売っている?(『ペットショップの裏口』)

◎闇金で借りた金を“競馬”で返済しようとしたら……(『ゼウスサンダーが駆けた日』)

◎大麻リキッドを売りまくって、人生終わるかと思った(『手押し魔人BOO』)

 

発売を記念して、収録作品を特別に公開いたします!

*   *   *

立ちんぼの落とし物

 

「ハイジア」で梅毒の無料検査を受けてきた。なんの自覚症状もなかったけど、周りでそういう話を聞くことがあまりにも増えてきたから。あとは、鼻が腐って取れてしまった人の写真をGoogleで見たから。

今と昔で違うんだろうけど。さすがに、鼻取れたらいやだなあと思って、検査に行ってきた。

結果は陰性。生だけはやらないようにしてたし、0.01ミリだとしても、ゴムってやっぱすごいんだなって思った。

 

いつものガードレールに腰をかける。

まだ夕方、空は明るい。

この時間から客待ちしている子は、いつもだいたい同じで、服装も同じ。みんなみんな、自分のことにお金を使えない。私はここで友達を作りたくないし、話したことはないから詳しくは分からないけど、たぶんみんな“ホスト”。

でも、この子たちと私でははっきり違うところがある。

それは絆。

私の担当は「もしも危ないことがあったら、すぐに助けにいくね」と心配してくれて、お守りを渡してくれてる。それが、このAirTagなの。

彼のアイフォンから、いつでも私の居場所が分かる。前にあそこのレンタルルームで女の子が変態に連れ去られたことがあって、その日に買ってくれたの。

 

私が大久保公園の周辺に着くと、すぐにLINEもくれる。「今日も頑張ってるね。無理しないでね」って。今日はまだこないけど、寝てるのかな。

5本取れた日は、だいたい5万くらい稼げる。50万円貯まるごとに、彼に会える。

もっと自分に自信をもってほしいのに、いつも、「俺なんて、どうせ」。そんなネガティブなことばかり言う彼だから、私がナンバーに入れ続けてあげないと、彼のメンタルは持たないんだ。

それに、バンドをやっていた時に、ドラムの人に騙されて結構大きめの借金も背負ってしまったから。

「いつか一緒に住みたいね。お金使わせてばかりでごめんね」

会うたびに彼はそう言う。

「俺から離れないでね。いなくならないでね。AirTagを持たせているのは、心配だからもあるけど、いつでも繋がっていたいからだよ。こんなこと、お前にしかできないよ」

尊い。頑張れる。

ホントの意味で、彼には私しかいないし、私にも彼しかいないから。だから頑張れる。

 

……ウザ。割引交渉客だ。5千円で本番ってバカかよ。うちがポチャだからってなめてんの? 公園分かってないヤツがおおすぎ。

でも私はレンタルルームへと歩いた。なぜなら、まだ外は明るいから。そんなに人がいないから。

 

「洗ったら、無臭になる仮性包茎と、洗っても臭いままの仮性包茎があるのは、なあぜなあぜ?」

 

今日は臭いほう。サイアク。

でも私はそれをほおばった。頑張って舐めた。回転、回転。だって、5千円なら早く終わらせないといけないから。だから、臭いけど舐めた。大きくしたら、ゴムをはめて、自分から入れた。

大きい声を出した。そっちのほうが悦ぶのを知っているから。すぐだった。

もうちょっとちょうだいよ、と言ったけど5千円以上はくれなかった。

 

ガードレールに戻る。

暇つぶしにニュースサイトを見る。

彼がいた。

 

『売掛金回収のため、女性客をGPSアプリやAirTagで監視し、大久保公園で立ちんぼをさせ、売春を強要したとして、新宿区歌舞伎町のホストクラブの従業員男性『如月永遠丸』こと高田一平容疑者(27)を新宿署は逮捕した。』

 

そう書かれていた。

「ウチだけじゃないんだ。みんなのこと見てたんだ」

彼が捕まったことより、そっちのほうが悲しかった。

 

絆なんてなかった。誰にでもやってた。

いろんな感情が私の中に渦巻いて、AirTagを投げた。地面に落ちたそれは、「なか卯」のほうに転がっていった。

 

もう終わり。サイアクだ。裏切られた。

 

それなのに私が次のおじさんとレンタルルームへと歩いているのは、なあぜなあぜ?

配信元: 幻冬舎plus

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