2人の朝ドラ主演女優が、陰湿バトル。女同士のマウント合戦から目が離せない | ドラマ『もしがく』6・7話

2人の朝ドラ主演女優が、陰湿バトル。女同士のマウント合戦から目が離せない | ドラマ『もしがく』6・7話

スターと凡人の差はどこにある

 女性たちのいがみ合いがいたたまれない『もしがく』。女性に限らず、ほかの人間関係も苦い。第6話ではうる爺(井上順)が降板する。そのきっかけは旗揚げ公演『夏の夜の夢』の打ち上げで、警官・大瀬六郎(戸塚純貴)がうる爺のマネをして受けているのをタイミング悪く当人が見てしまったことだった。自分じゃなくてもいいと思い込んでしまったのだ。

 『もしがく』6話場面写真©フジテレビ ここで、うる爺がおもしろいから完コピしたのだと言ってあげたらいいのに、誰もそう言わず、黙ってしまう。やっていることは演出家クベの要求どおりであり、それが最もうまくできる人が求められるわけで、若くて元気な大瀬のほうがよく見えてしまうのも仕方のないことだった。

 しかも、うる爺は本番に弱い。なかには名優・是尾礼三郎(浅野和之)のように、ふだんは酒浸りの老人だが、舞台に立つと輝きまくる人もいる。これが売れる売れないやスターと凡人の差であろう。努力だけではどうしようもなく、理屈や倫理観で片付かないものが芸能の世界にはある。

彗星フォルモン(西村瑞樹)と王子はるお(大水洋介)のコンビ解散問題も然り。



お笑いコンビの残酷な“格差”と別れ

 第7話では、はるおだけにいい仕事の話が来て、彼は舞台を降板してテレビの仕事をすることになる。はるおは実は大スター・ポニー田中(堺正章)の御曹司で、その七光りも多分にある。

 『もしがく』7話場面写真©フジテレビ 格差のあるフォルモンとはるおの別れ方がなんとも苦い。別れ際、フォルモンは冷静を装って、握手を求める。「いつかさ俺も呼んでくれよな」「お願いしますよ」と下手に出ると、はるおは汚いものを見るような目になって「どいてくれませんか」と握手を拒否して去っていく。メロウなピアノ曲の劇伴が鳴って、はるおもフォルモンも憂い顔。

 取り残されたフォルモンは「はるお以上の相棒はいねえよ」とつぶやく。お互い本音を隠してお涙頂戴の別れにしないように強がっているようにも見える。それも嘘ではないだろう。でもはるおが自分だけ売れる仕事を選びフォルモンが取り残される残酷な格差は厳然たる事実。どうしようもないのだ。

「こんなこといつまで続けるんですか」

 クベもどうしようもない状況に追い込まれている。嘘に嘘を重ね続けてどん詰まりの袋小路。劇場のオーナー(シルビア・グラブ)には週120万円支払わないといけないが、思ったほど集客は伸びない。初週は、支配人(野添義弘)が大切な鎧を売って120万円を作った。翌週は、クベがはるおの支度金を口八丁手八丁でいただいて、それを支払いに回す。こんな綱渡りで毎週120万円なんて続かないだろう。はるおは「もうひとつ信じられないんだよ」とクベがお金を使い込むんじゃないかと懐疑的だったし、蓬莱(神木隆之介)は「こんなこといつまで続けるんですか」とクベに進言する。

 『もしがく』7話場面写真©フジテレビ 「うるさい」と突っぱねるクベ、自分でも長続きしないのはわかっている。絶望していると、稽古場でトニー(市原隼人)がひとり稽古をしている。純粋に懸命に稽古している姿――それは汚れちまったクベの本来の姿(演劇が純粋に好き)でもあるだろう。だからクベは泣きながら、トニーに稽古をつける。この瞬間だけは嘘がなく、美しく幸福な時間である。

 『もしがく』7話場面写真©フジテレビ 樹里が舞台上で俳優たちが楽しそうだと言ったときリカがむっとしたのは、樹里が舞台で生きる人たちの複雑なしんどさを樹里が知らないからだろう。楽しいこともあるけれど、決して楽しいばかりじゃない。思い通りにいかないことばかりでしんどいけれどほかにやれることがないのだ。しかもそのなかでも残っていける人と脱落していく人がいる。



キャラ大渋滞のまま、物語はどこへゆく?

 そんな人たちの吹きだまりである八分坂。でもこの場所のモデルである渋谷・道玄坂は袋小路ではなく、道玄坂と文化村通りに抜けることができる。ちょっと迷う箇所もあるけれど、そこに生活する人たちは行き止まりでは決してない。

 『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は略すると『もしこぶ がくどこ』だそうだ。占いばば(菊地凛子)が第7話の冒頭でそう語っていた。でも長いのでやっぱりここでは『もしがく』にしておく。

 『もしがく』7話場面写真©フジテレビ 第6話までが第1部で、第7話から第2部に突入した『もしがく』。第6話ではうる爺が退場し、代わりに名シェイクスピア俳優・是尾礼三郎がイン。さらにリカの元彼・トロ(生田斗真)も参入し、第7話では、はるおも八分坂を去る。大渋滞の整理はつかず、八分坂は混沌としている。おそらく、この地はジャンクションのようなところであって、人々が立ち寄っては去っていく。定着しない場所なのだろう。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami



配信元: 女子SPA!

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