介護事業者社員が公選法違反容疑で書類送検 不正行為は業界の首を絞める結果に

介護事業者社員が公選法違反容疑で書類送検 不正行為は業界の首を絞める結果に

今年7月に行われた参議院議員選挙の際に公職選挙法に違反した疑いで、関西に本社を置く高齢者施設運営会社の社員3人が書類送検されました。

介護関係者には改めての説明は不要かと思いますが、施設入居者などで物理的に投票所に出向いて投票を行うことができない有権者については、特別な不在者投票制度が適用されるケースがあります。

詳細は省略しますが、この制度では施設の職員が通常の投票所の立会人などの役割を果たすことができます。

この場合、当然ですが通常の投票所と同様に投票の公平性や秘密は守られなければなりません。

しかし「判断能力に問題がある入居者に替わって職員が勝手に候補者の名前を書いて投票する、あるいは特定の候補者の名前を書くように指示するなどの不正行為が可能になる」という問題点がかねてより指摘されていました。

今回の件では、2つの高齢者施設で合計35人の入居者になり替わって職員が特定の候補者の名前を記入して投票したとされています。

もし、それが事実であるならば選挙の公平性・信頼性を損なう極めて悪質な行為です。

7月の選挙には、介護事業者団体の代表者が立候補をしました(結果は落選)。

特に現場職員の処遇改善に関しては、介護報酬引上げなどの政治的な判断が不可欠になることもあって、過去に例を見ないほどに介護業界全体が活発に動いた選挙だったと言えます。

しかし、特定の候補者のためにそうした不正をはたらいたとなれば、仮にその人が当選したとしても「不正な投票で当選したのではないか」と色眼鏡で見られてしまいます。

また、今後、介護業界から政治の道を志す候補者についても同様の目で見られてしまい、業界外からの支持を得られなくなる可能性もあります。

結果的に「介護業界の声をバックに立候補しよう」という人が少なくなり、今以上に介護現場の声が政治の中枢に届かなくなる可能性が高くなります。

今回のような行為は、かえって業界の利益に反する結果を生みかねません。

今回の一件を受けて、インターネット上には「一定条件を満たす高齢者は選挙権を剥奪すべき」などと高齢者自体に問題があり、その責任を負わせるべきではないかといった意見が続出しました。

しかし、年齢で区切って選挙権を喪失させるのは、同じ年齢でも認知機能には個人差があることを考えると問題があります。

また、認知機能の低下を理由にするのも「具体的にどのような基準を設け、それをどのように運営するのか」などといった点で課題があります(注:重度の認知症などで自分の意思を表明できない人は、現時点でも前述した不在者投票制度の対象外です)。

それらの点を考えると高齢者の選挙権を制限するのは現実的ではありません。

しかし、仮の話ですが、今回の件の捜査などを通じて同様の行為がほかでもあったことが明らかになったりすれば(ネット上では「どこでもやっていること」「氷山の一角」という書き込みが多数ありました)、不在者投票制度自体が廃止されたり適用される条件が厳しくなったりして、要介護高齢者が政治に参加できる機会が大幅に減少してしまう可能性もゼロではありません。

そして、高齢者が投票できないとなれば、候補者は若者や現役世代だけに刺さる政策を掲げることになりますから、結果的に高齢者医療や介護に関連する施策は後回しにされてしまいます。

不正な行為は結局自分たちの首を絞めることになります。

自分たちの声を届けてくれそうな候補者を応援しようという気持ちは大切です。

しかし、それは、まっとうな方法で行われるべきです。

特に、不在者投票制度が適用される介護業界だからこそ、クリーンな姿勢で投票に挑むことが求められると言えます。


介護の三ツ星コンシェルジュ

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