娘の友人の奇行に悩まされ続けていた主人公・果穂。そんな中、なんとついに「家に対しての被害」とも言える事態が起こってしまうのです。
ベランダ放置子がしていた“とんでもないこと”
そして数日後。その日、事件はベランダで起こりました。
「パパ!大変!」
ももの声に、雄也が仕事部屋から出てきます。私も、リビングからベランダの様子を窺いました。ベランダのコンクリートの地面に、絵の具がこぼれている。そして、その絵の具を、みかんちゃんが指で伸ばし、何かを描こうとしているではありませんか。
それは、まるで抽象画のように、赤や青、黄色の色が混ざり合い、コンクリートのグレーを覆い隠していました。
「みかんちゃん!何してるんだ!?」
夫の大きな低い声が響きます。みかんちゃんは、ビクッと体を震わせ、雄也を見上げました。手には、私がももに買い与えた水彩絵の具のセットが握られています。その箱の中は、すでにめちゃくちゃになっており、絵の具のチューブがいくつも飛び出していました。
「ももがトイレに行ってたら、みかんちゃんが…」
ももはあまりのことに唖然としています。
「絵を描こうと思って…」
みかんちゃんの無邪気な言葉に、雄也の怒りが頂点に達しました。
「ここは君の家じゃない。人の家のベランダを汚すとはどういうつもりなんだよ」
雄也の声には怒りだけではなく、悲しみや、やり場のない苛立ちを含んでいるように私には聞こえました。みかんちゃんは、雄也のあまりの剣幕に、さすがに顔を青ざめさせました。
「ご、ごめんなさい」
か細い声でそう言うと、みかんちゃんは、持っていた絵の具のセットを放り出し、ももに「これ返すね」と言うと、サッと走り出して一目散に玄関から飛び出していきました。
みかんちゃんが帰った後、雄也は怒りが抑えられません。
「他人の家に落書きって…一体どういう教育されてるんだよあの子は。もう家には一切あげさせないでくれ」
雄也の言葉は、私の心に深く突き刺さりました。雄也の怒りは、みかんちゃんに対するものでもあり、私に対するものでもありました。ベランダの汚れは私が落としましたが、水性絵具とはいえコンクリートに染みたものはなかなか落ちませんでした。
授業参観で放置子の母に遭遇
それ以来、ももにもしっかり言い聞かせ、みかんちゃんとは外で遊ぶようにさせていました。これまでは雨の日は仕方なく家にあげたりしていましたが、それもなしにしています。
そんなある日、学校の参観日でみかんちゃんのお母さんに会いました。みかんちゃんのお母さんは想像より物腰やわらかく、ていねいな印象の方でした。
「いつも、ももと仲良くしてくれて、ありがとうございます」
私がそう言うと、みかんちゃんのお母さんは
「こちらこそ、うちの子がいつもお世話になってしまって…なかなかご挨拶に伺えていなくてすみません」
と、恐縮した様子で答えました。私は、この機会に、思い切って話を切り出すことにいたしました。
「あの…実は、少し、困っていることがありまして…」
私は、言葉を選びながら、みかんちゃんが私の家で走り回ったり、ベランダを汚してしまった話を伝えました。みかんちゃんのお母さんは、申し訳なさそうな顔で、何度も頭を下げました。
「それは本当に申し訳ございません。家では静かなタイプの子で、ももちゃんの家でそんなに暴れているなんて知りませんでした。私の把握不足でした。家に戻ったら厳しく言っておきます」
それからしばらくは、みかんちゃんが家に来ることもなく、平穏でした。しかしある日の朝に目を覚ました瞬間、耳を疑いました。
「ガチャン」
リビングの方から、何かが開くような音がします。家族はまだみんな寝ているのに…。私は心臓をバクバクさせながら、そっとリビングに向かいました。
「おはよう!」
リビングの掃き出し窓が少し開いており、そこから、見覚えのある顔が、私に満面の笑みを向けておりました。みかんちゃんでした。

