大災害に備え、食品や飲料、防災グッズを買ったものの、どこにどう収納すればいいのか悩んでしまうーー。そんな人たちの参考にしてもらおうと、「防災備蓄収納プランナー協会」(長柴美恵代表理事)は2025年9月下旬、自宅の備蓄品の収納法を発表して競う「防災備蓄収納自慢 BJ‐1グランプリ」を開催しました。グランプリに選ばれた防災備蓄収納1級プランナーで神奈川県在住の呉田清美さんに、備蓄への思いや工夫を聞きました。
グランプリを受賞した呉田清美さん
東日本大震災でライフラインが寸断 不便な生活で気付いたこと
呉田さんが防災用品の収納に興味を持ったのは、東日本大震災で被災した経験が大きく影響しているといいます。
当時、会社員の夫の転勤で、仙台市内のマンション3階に家族3人で暮らしていた呉田さんは、高校生だった長男とお茶をしようと、テーブルに座った瞬間、大きな揺れに見舞われました。
収納棚からモノが落下したり、壁にひびが入ったりしましたが、運良く大事には至りませんでした。しかし、ライフラインは寸断され、電気は3日間、水道は4日間、ガスは約1か月ほど止まりました。
「家庭で備蓄する」という考え方は当時、広がっておらず、呉田さんも防災のための備蓄には取り組んでいませんでした。そのため、自宅にあった飲料水は2Lのペットボトルが2本だけ。食糧もあまりありませんでした。
「共働きをしていたこともあり、食品の買い出しは毎週土曜日に、1週間分まとめて買っていました。震災が起きたのは金曜の午後。ほとんど食品を食べ尽くした状態で被災しました」と振り返ります。
スーパーの生鮮食品売り場は空っぽ 手に取れたモノとは?
店で買い物をしようと思っても簡単ではありませんでした。雪の中、出かけた大型スーパーでは6時間並んでようやく店内に入れたものの、生鮮食品やパンなどは一切なく、購入できたのは乾物や乾麺、レトルト、缶詰、小麦粉など。しかも1人10点までという制限つきでした。「どれも常温保存ができて、比較的賞味期限の長いものばかりでした。これなら、自分で備蓄しておけばよかった、と強く思いました」と言います。
こうした経験をもとに、リビング横の部屋の押し入れ下段を、防災用品のメイン収納場所として活用しています。かつては、衣替え用の衣類を収納していた奥行きのあるプラスチック製の引き出し6つに必要となるモノを収納しています。押し入れの下段にあり、さらにケースに収納しているため、大きな地震が来ても中のモノが飛び出したり散らばったりする心配はなさそうです。また、何が入っているか一目で分かるよう、大きな字で分類が記されています。

引き出しの分類は次のとおりです。
「ごはん・パン」=アルファ化米や長期保存可能なパンなど
「麺・もち」=乾麺やカップ麺、個包装された切り餅などのもち類
「おかず・スープ」=パウチタイプのおかず類やフリーズドライなどの即席スープ
「軽食・おやつ」=ゼリーやお菓子類
「食事用品」=耐熱の紙コップや割り箸など
「衛生用品」=マスク、体拭きシート、消臭用袋など
「おやつ・軽食」には、果物入りゼリーやぜんざい、スナック菓子など、好みのものを数多く取りそろえています。「震災時は果物がほとんど食べられなかったので、必ず果物たっぷりのゼリーを備えるようにしています。非常時こそ、好きなお菓子を食べてホッとしたり、疲れを癒やしたりする時間が大事になります」と教えてくれました。
食品にはすべて賞味期限を大きく記したシールを貼っているのもポイントです。月1回チェックし、賞味期限が近づいてきたら引き出しから取り出し、優先的に食べるようにしているそうです。「食べた分を買い足すローリングストックにより、夫と自分が自宅で1週間は暮らせるだけの食品を取りそろえているつもりです」と話します。
ポータブル電源やブルーシートも用意
停電に備えてポータブル電源2台と、ベランダに広げて使えるソーラーパネルも用意しています。「夫は就寝時に医療機器を装着して寝ているため、非常用電源が必要になります。そのために購入したのですが、太陽光の強い夏はソーラーパネルを使って充電した電気で扇風機を使ったり、スマホを充電したりできてとても便利でした」と教えてくれました。
ポータブル電源は2台を準備。ベランダに広げて使うソーラーパネルもある
また、震災後はブルーシートの需要が一気に高まり、入手できなくなるため、2・7m×3・6mのブルーシートも準備しているそう。「もし窓ガラスが割れた場合でも、シートで覆えば雨風を一時的にしのぐことができます」。
コンロ下にコンロ?卓上型IHコンロを備える理由に納得
被災経験のある呉田さんならではのアイデアは台所にも光っていました。BJ―1グランプリでも審査委員に高く評価されたのが、ガスコンロ下にある引き出しの使い方で、カセットコンロと卓上型のIHコンロの両方を収納しています。
「震災時、カセットコンロを持っておらず、温かいものを口にすることができませんでした。数日後、電気が復旧してからは卓上型の電気グリル鍋が非常に役に立ちました。でも、附属の鍋しか使えないタイプだったため、震災後、新たに卓上型のIHコンロを購入。カセットコンロも備えるようになりました」と説明してくれました。
キッチンにあるガスコンロ下の引き出しには、カセットコンロと卓上型のIHコンロ
収納場所をガスコンロの下にしたのは、家族の誰もが覚えやすいから。さらに取り出しやすく、片付けやすいのもポイントです。使い慣れておくために、定期的に鉄板焼きや鍋料理などをして日頃から活用することも心がけているそうです。
就寝中や外出時の災害に備えて用意しているモノとは

就寝中に被災する可能性があることも考え、寝室には大きなケースが設置されていました。中には水などの飲料と、簡易トイレが収納されています。また、軽く触れるだけで点灯するライトや非常持ち出し用リュックも同じ場所に置かれていました。
玄関近くの部屋にあったのは、持ち運びしやすい500ml入りのペットボトル飲料です。お茶や水など、様々な種類をそろえて、まとめて置かれていました。キャップには、賞味期限を大きく書いたシール。「外出先で災害に遭うこともあります。今日の気分に合わせた好みの飲料を持って出かけるようにしています」。こちらも、消費したら買い足すローリングストックを実践しているそうです。

「実は片付けが苦手で、何年もかけて試行錯誤しながら今の形にたどり着きました。災害はいつやってくるか分かりません。大災害が起きても多くの人は、在宅避難することになるでしょう。ですから、できることから少しずつ準備をし、いざというときに備えてほしいです。私もBJ-1グランプリにエントリーしたことで改めて家の防災備蓄を見直すきっかけになりました」と呉田さんは話していました。
東日本大震災で被災し、日常の不便さを経験したからこそ得た知恵がぎゅっと詰まった防災収納の工夫は、多くの人の暮らしのヒントになると感じました。
<防災ニッポン編集長 板東玲子>
