●証明すべき「事実」は「不倫騒動があったこと」か、「不倫の事実」か?
立花氏らが選挙ポスターに記したのは、「不倫騒動を許すな!」という文言でした。
「不倫騒動」は、一見すると私生活上の事実であって、政治家としての能力とはあまり関係ないように思えます。
古い判例では、公務員の資質や能力と全く無関係な事実については、真実性の証明の対象にならない(=処罰される)とされています(最判昭和28年(1953年)12月15日参照)。
ただ、私人の私生活上の行状であっても、その人が携わる社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度によっては、その社会的活動に対する批判や評価の一資料として公益性が認められる場合があるとする判例(最高裁昭和56年(1981年)4月16日判決・月刊ペン事件)もあります。
参議院議員選挙の候補者に関しては、不倫をするような人物であるのかという点で、国会議員としての適性を国民が判断する際の資料となり得るという意味で公共の利害に関する事実と見る余地もあると思われます。
●「真実性の証明」とは?
立花氏は、自身のYouTube動画(10月9日配信)の中で、「(石垣議員が)不倫騒動を起こしていたことは事実ですし、それに対して何を名誉毀損なのかちょっとよくわかりませんが、警察の方にもちゃんと事情を説明してきました」と発言しています。
これは、「不倫した」と言っているわけではなく、「不倫『騒動』を起こしていた」と言っている、という主張と考えられます。
しかし、名誉毀損罪における真実性の証明の対象となるのは、風評の存在そのものではなく、その風評の内容である事実が真実かどうかです(最高裁昭和43年1月18日決定参照)。
なぜなら、「そのような噂がある」という事実を示した場合でも、一般の読者や聴衆はその噂の内容そのものが真実であると受け取ってしまうのが通常だからです。
この判例からすれば、「不倫騒動」という事実を示せば、一般には「不倫をしている」ことが真実であると受け取ってしまうのが通常であるといえ、「実際に不倫があった」という事実の真実性の証明が求められることになると考えられます。
なお、「実際に不倫をしたかどうかに関係なく、そもそも不倫騒動が報じられるような人物は国会議員としては不適切である」という趣旨である、などとして、真実性の立証対象が何であるのかを争う余地はあると思います。
真実性の立証責任は、名誉を毀損したとされる側(今回の場合は立花孝志党首ら)が負います。
もし示された事実が真実であると証明されれば、名誉毀損罪は成立しません。

