韓国人であることを理由に上司から「レイシャルハラスメント」(差別的な扱い)を受けたのに、会社に申し立てたところ、逆に解雇された──。
元外資系証券マンの40代男性が、会社を相手取り、損害賠償や解雇無効を求めた裁判の控訴審判決が11月18日、東京高裁であった。
水野有子裁判長は、一審・東京地裁の判断を支持し、原告側の控訴を棄却した。原告側は上告する方針を示している。(ライター・碓氷連太郎)
●解雇無効などを求めて提訴した
原告側によると、男性は日本の証券会社の海外支社勤務などを経て、2007年にモルガン・スタンレーMUFG証券へ転職。債券デリバティブなどを担当していた。
その勤務中の2012年、当時の上司が、韓国の李明博大統領(当時)が天皇に謝罪を求めると受けとれる発言をしたことをめぐり、「天皇を侮辱するな」などと述べたという。
このころ日本では、李大統領が竹島に上陸したのち「韓国に来るなら日王(天皇のこと)は独立運動家に謝るべきだ」と発言したことが大きく報じられていた。
原告側によると、上司はさらに、徴用工問題をめぐる韓国大法院の判決への不満を述べたり、韓国海軍が自衛隊の哨戒機に対してレーダーを照射した問題の際には「レーダー照射、どうにかしてくれ。あなたの先輩だろ」などと発言したという。
男性は2020年3月、これらの言動がレイシャルハラスメントに該当するとして、会社へ調査を求めたが、会社側は「威圧的、敵対的または不快な職場環境を作り出すほど悪質または蔓延している」という定義にあたらないと判断した。
さらに会社は、調査開始時に秘密保持契約を理由に、男性に守秘義務があるとして、社内外の第三者に話すことの一切を禁止。男性が納得できず、ハラスメント調査の担当者や米国本社CEOなどにメールを送ったところ、自宅待機を命じられた。
その後も、男性は調査の不当性を訴えるメールを本社経営陣らに送り続け、同年9月に「けん責処分」、そして2021年1月に解雇を通告された。
男性は、解雇無効だけでなく、ハラスメント調査義務に違反したとして、モルガン・スタンレーグループに損害賠償を求めて提訴した。
●一審の東京地裁は「解雇は正当だ」と判断した
一審の東京地裁は2024年6月、「社内で調査結果についての意見を述べたことは懲戒事由にあたる」「守秘義務は調査が終わった後も無期限に続き、被害事実も対象となる」と指摘。
そのうえで「会社側の『今後、他の人に言いふらすのではないか』というおそれがあることを理由に、解雇することは正当である」などとして、請求を棄却した。
また、差別的発言については「精神的苦痛を与えるものである」ことは認めたものの、「ハラスメントには該当しない」とした。
男性は判決を不服として控訴した。

