なかえよしをと上野紀子、二人三脚の絵本づくり
引用:いたずらにも創意工夫が必要 「ねずみくんの絵本」シリーズ作者 なかえよしをさん&上野紀子さんインタビュー|ポプラ社
『ねずみくんのチョッキ』は、なかえよしをさんと上野紀子さん夫婦による作品です。
なかえさんは日本大学芸術学部美術科を卒業後、大手広告代理店でデザイナーとしてキャリアをスタートさせました。しかし、「ディレクターやスポンサーの要望に応えるばかりで、自分がいいと思う作品がなかなかできない」という葛藤から、自由な創作の場を求めて絵本の世界へ進みます。
一方の上野さんは日本大学芸術学部美術科で学んだあとに、イラストレーターとして活動を始めます。なかえさんとともに、1973年にアメリカで『ELEPHANT BUTTONS』を出版し、絵本作家としてデビューしました。
二人の絵本づくりは、なかえさんが物語と構成を考え、上野さんが絵を描くという分業です。単なる役割分担というわけではなく、なかえさんはインタビューで次のように語っています。
初は僕も絵描きになろうと思ってたんですけど、上野のほうが断然絵がうまいので、絵本では絵を上野にまかせて、僕はお話を考えるようになりました。お話を考えるのも意外と絵の世界と同じで、絵を描くようにお話を書けばいいわけです。ですから「2人だからできた」というよりも、「2人じゃないとできなかった」。絵の得意な上野とお話を考えるのが得意な僕で、絵本は偶然、不思議なくらい向いていたんだと思います。
(引用:ダ・ヴィンチニュース「夫婦二人三脚で『ねずみくんの絵本』を制作!『生きてるときに「がんばったね」と褒めてあげたかった』【なかえよしをさんインタビュー】」)
2019年に上野さんがこの世を去ってからは、なかえさんは彼女が遺した膨大な絵をデジタル上で組み合わせるといった手法で創作を続けています。
『ねずみくんのチョッキ』の余白の美学
引用:ねずみくんのチョッキ|ポプラ社
『ねずみくんのチョッキ』の世界には、背景が描かれていません。
作者のなかえさんは構成そのものをシンプルにし、赤いチョッキの色やねずみくんのわずかな表情の変化が際立つように意識して創作されました。
そのため情景描写を削ぎ落とし、会話だけで物語を進めることで、絵が語る余地を大きく残しています。
ねずみくんの表情や姿勢には細やかな工夫が凝らされ、白目のある小さな瞳が、言葉以上に感情を伝えてきます。ねずみくんの身長はシリーズを通して2cm6mmに統一。その小ささが大きな動物たちとの対比を際立たせています。
セリフの繰り返しも、絵本のリズムをつくる大切な要素です。「ちょっときせてよ」「すこしきついがにあうかな?」という繰り返しのやりとりが、心地よさを生み出しています。
余白があるからこそ、読者はねずみくんと同じ目線で世界を感じられます。
