『ねずみくんのチョッキ』をもう一度読む理由
引用:ねずみくんのチョッキ|ポプラ社
出版から50年が経った今でも、なぜ私たちは『ねずみくんのチョッキ』に惹かれるのでしょうか。
スマホを開けば、次々と新しい情報が流れ、本当に必要なものまで、こぼれ落ちてしまいます。そんな時代だからこそ、ゆっくり考えたり、親子で過ごす時間は貴重なものです。
会話をすることで子どもも大人も、自分の中にある感じ方や考え方を見つけやすくなります。『ねずみくんのチョッキ』がくれるのは、まさにその「何もない豊かな時間」です。何も描かれていない真っ白な背景に、読者が自由な発想で思いを巡らせることができます。
「ねずみくんは、今どんな気持ちかな?」言葉が少ないからこそ、小さな表情からたくさんのことを感じ取ろうとする。情報をただ受け取るのではなく、心で物語をゆっくりと味わう。そんな時間を体験できる『ねずみくんのチョッキ』は贅沢な読書なのかもしれません。
子どもと大人の感性
『ねずみくんのチョッキ』は、読む年齢によって印象が変わる絵本です。
子どもには「かわいくて、おもしろい話」として心に残りますが、大人になると奥に潜む静かな痛みに気づかされるでしょう。
ねずみくんは、善意から大切なチョッキを友だちに貸します。しかし、無邪気なやりとりのなかで、チョッキは少しずつ形が変わってしまうことに。ねずみくんは、伸びていくチョッキを静かに見つめています。
物語の終わりには、チョッキはブランコへと姿を変えます。子どもは「よかったね」と素直に喜びますが、大人はチョッキが形を変えていくなかで、子どもの頃は気づけなかった想いや物語を感じ取るでしょう。
同じ絵本でも、年を重ねるほどに見えてくる世界があります。それこそが『ねずみくんのチョッキ』が長く読み継がれてきた理由のひとつかもしれません。
