
落語家として多忙な日々を送りながら、テレビやラジオで活躍する立川志らくさん。そんな志らくさんを突然襲ったバセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで体にさまざまな不調をもたらす病気です。バセドウ病という名前は聞いたことがあっても、どのような病気か知っている人は少ないと思います。今回は実際にバセドウ病を発症した立川志らくさんの体験を振り返りながら、バセドウ病について日本甲状腺学会認定専門医の赤水尚史先生に解説していただきます。

インタビュー:
立川志らく(落語家)
1963年8月16日生まれ。東京都出身。1985年10月立川談志に入門し今年で芸歴40周年を迎える。1988年には二つ目昇進。1995年、真打昇進。現在、弟子18人を抱える大所帯。落語家、映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、エッセイスト、劇団主宰と幅広く活動している。昭和歌謡曲博士、寅さん博士の異名を持つ。TBS系列「ひるおび」、MBS「プレバト!」(俳句名人6段)、NHK「演芸図鑑(MC)」ほか多数出演。

監修医師:
赤水尚史(日本甲状腺学会認定専門医)
1980年に京都大学医学部を卒業後、同大学医学部附属病院や神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)などで内分泌学を専攻し、特に甲状腺分野におけるキャリアを開始。米国国立衛生研究所(NIH)留学などを経て、2007年京都大学医学部附属病院探索医療センター教授、2010年より和歌山県立医科大学内科学第一講座教授に。長年にわたり内分泌医療の研究および診療に尽力してきた。さらに、日本甲状腺学会理事長、日本内分泌学会代表理事、国際内分泌学会理事などを歴任し、国際的にも学会の発展に貢献した。2020年4月より隅病院に入職し、院長に就任。

赤水先生
現在の体調はいかがですか?
志らくさん
バセドウ病になって20年近く経ち、最初に比べると薬の量も減っていて自分がバセドウ病であることを意識しないほど順調です。バセドウ病とはどのような病気なのでしょうか?
赤水先生
バセドウ病とは甲状腺が活発に働きすぎて、体内に必要以上のホルモンを作ってしまう病気です。
志らくさん
甲状腺には、どのような働きがあるのですか?
赤水先生
甲状腺は喉仏付近に位置する15〜20gの小さな器官です。甲状腺ホルモンを作り、血液を通じて全身の臓器や細胞を活性化させます。心臓に作用すると脈が速くなり動悸が起こるほか、交感神経も刺激され、多量の発汗や手の震えが起こることもあります。また、代謝が活発になりカロリー消費は増えて体重が減ることも特徴です。最初はどのような症状がありましたか?
志らくさん
最初のうちは異常に汗をかいて、落語が終わるころには座布団のまわりが汗で濡れてしまうほどでした。座っていて立ち上がれなくなったことも何回かあったことを覚えています。
赤水先生
動悸や手の震えはありましたか?
志らくさん
ありました。疲労感も感じていたのですが、加齢や忙しさのせいだと思っていました。
赤水先生
ほかに何か症状はありましたか?
志らくさん
1ヵ月で体重が10㎏減りましたが、ちょうど演劇の役作りのためにダイエットをしていたので、気にしていませんでした。
赤水先生
汗をかくことや体重が減ることはほかの病気でも起こるので、発見が遅れるかもしれませんね。バセドウ病が発覚したきっかけは何だったのでしょうか?
志らくさん
私の弟子が現役の内科医で、私の異変に気づき血液検査をしたことがバセドウ病を発覚したきっかけでした。その弟子の奥さんがバセドウ病の専門医だったことも幸運な巡り合わせだったと感じています。
赤水先生
幸運でしたね。バセドウ病が発覚した当時の心境について教えてください。
志らくさん
家族にも同じ病気になった人はおらず、まさか自分がバセドウ病になるとは思いませんでした。遺伝と関係はありますか?
赤水先生
遺伝病ではありませんが、体質的な影響はあると考えられています。例えば母親がバセドウ病の場合、娘はバセドウ病を発症する確率が5〜10倍ほど高くなるようです。
志らくさん
私が発症した当時は発覚していませんでしたが、現在母親も甲状腺の病気で病院に通っています。もともと体質的な影響はあったのかもしれませんね。バセドウ病の原因は分かっていますか?
赤水先生
根本的な原因は自己免疫の異常です。そこにストレスや風邪などの環境要因が積み重なって発症すると考えられています。何か心当たりはありますか?
志らくさん
落語会の前はかなりのプレッシャーを感じていました。30代のころにはストレスで円形脱毛症になったこともあります。医師から喫煙と飲酒は控えるように言われてやめましたが、それらは影響するのでしょうか?
赤水先生
飲酒に関しては、飲み過ぎはもちろん良くありませんが、私は特に禁止してはいません。
志らくさん
飲酒にはそこまで厳しくならなくていいのですね。喫煙はいかがですか?
赤水先生
喫煙はバセドウ病の症状、特に眼症を悪化させると言われているため、注意が必要ですね。
志らくさん
バセドウ病は男性よりも女性に多くみられる病気ですか?
赤水先生
一般的にバセドウ病は女性に多く、男性の約5倍以上の発症率とされています。
志らくさん
男性と女性で、重症度に違いはありますか?
赤水先生
重症度は変わりませんが、症状には違いがあります。特に体重の変化が特徴的です。男性は必ず減少するのですが、女性は半数が減少し、残りは変わらないか増加することもあります。
志らくさん
それはどうしてですか?
赤水先生
食欲が増し胃腸の働きも活発になるため、女性は過食に至ることがあると考えられています。
志らくさん
男性で増える人はいないのですか?
赤水先生
ほとんどいません。さらに、アジア系男性には手足に麻痺が起こり志らくさんのように立ち上がりや起き上がりが困難になる場合もあります。ただし、しっかりと治療すれば回復しますので、早期に発見して適切に治療することが大切です。
志らくさん
命に直結する病気ではなく、怖がり過ぎないことも大切ですね。私の妻が橋本病で現在も病院に通っているのですが、バセドウ病と橋本病の違いは何でしょうか?
赤水先生
橋本病は慢性甲状腺炎と呼ばれ、甲状腺に慢性的な炎症が起こり、ホルモン産生が低下します。一方バセドウ病は甲状腺機能が亢進するため、症状は正反対です。しかしどちらも免疫異常が根本的な原因であり、家族内でバセドウ病と橋本病がそれぞれ異なった人に現れることもあります。
志らくさん
橋本病も女性に多い病気ですか?
赤水先生
橋本病も女性に多くみられ、その比率は約1対10だと言われています。
志らくさん
私はバセドウ病のほか、睡眠時無呼吸症候群でCPAP(持続陽圧呼吸療法)を使用していた時期もあるのですが、睡眠時の無呼吸と甲状腺の働きには何か因果関係があるのでしょうか?
赤水先生
そうですね。睡眠時無呼吸症候群と診断されたのはいつ頃でしたか?
志らくさん
バセドウ病の治療を開始してしばらく経った頃だったと思います。
赤水先生
睡眠時無呼吸症候群と甲状腺疾患は密接に関係しており、特に橋本病などの甲状腺機能低下症と合併しやすいと言われています。甲状腺機能が低下すると代謝も落ちることで呼吸が抑制され、肥満やむくみで体重も増加することで呼吸がしにくくなると考えられています。バセドウ病を発症した後に体重の変化はありましたか?
志らくさん
私の標準体重は68kgですが、バセドウ病発症時は61kgまで減少しました。睡眠時無呼吸が悪化しCPAPを使用したのは、薬の服用で体重が80kgまで増加した頃のことです。現在体重は70kgまで戻りCPAPも使用していません。
赤水先生
睡眠時無呼吸症候群との関連において体重の変化は大きな指標となりますね。

編集部より
バセドウ病は体質や性別による差はあるものの、誰にでも発症する可能性がある病気です。加齢や更年期の症状と混同されやすく、気づきにくいことが多いため、体の異変を感じた際には早めに受診し甲状腺の検査を受けることが重要だと考えられています。今回の記事が、バセドウ病をはじめとする甲状腺の病気について知るきっかけとなれば幸いです。
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