材料を選んで、火加減を調整して、味見をしながら仕上げていく。
料理と同じように、曲づくりにも「香り」や「余韻」があって、
たったひとつのスパイスが全体を劇的に変えることだってあります。
音楽にも“出汁”のような土台があって、
そこにどんな素材を組み合わせるかで、まったく違う世界が広がります。
私は日本食の料理人として、和食をベースに、時には詩吟というスパイスなどを用いて多国の要素を取り入れた創作料理を作っているという感じなのかもしれません。
和食の静けさ、洋食の華やかさ、アジア料理の刺激。
一見バラバラなようでいて、
ひとつのお皿の上で調和すれば、まったく新しい味が生まれる。
音楽も同じで、それを作っている私自身が楽しんでいます。
「今日はどんな料理を作ろう?」
そんなワクワクで、毎日キッチンならぬスタジオに向かっています。
今回のアルバムは、まさにその集大成です。
日本人の“和食料理人”が心を込めて作った、
和を軸とした多国籍料理のフルコース。
一品目では雅楽とオーケストラがふわりと香り、
二品目ではダンスビートを刻むリズムが舌を誘うスパイシーな一皿が踊り出し、
三品目ではメタルの鉄板がジュッと音を立て、
四品目ではジャズのスモークがほのかに立ち上がる。
どれもまったく違う味なのに、
芯の部分には必ず「和」の出汁が流れている、
そんなアルバムになりました。
自分でも驚くのですが、
文化もジャンルも国境さえも越えていくと、
逆に“自分の本当の味”がはっきり見えてきます。
この作品を作りながら
「私はやっぱり日本の料理人なんだ」と
改めて気づかされました。
お気に入りの一品を見つけていただけたなら幸いです。
どうぞ、召し上がれ。

