なくなった指輪は、意外な場所に
「え? 何で? と部屋中あちこち探し回り、焦って思わず冷蔵庫を開けると……冷凍室の製氷皿の上に指輪がちょこんと置いてあって、健二の字でメモが添えられていたんですよ」そのときの季節は夏。メモには「最近、指輪をしてるのも暑いよね。冷やしておいたからきっと気持ちいいよ!」と書いてありました。それを見た瞬間、未歩さんの目から涙がこぼれたそう。
「私が気づけなかっただけで、健二は健二なりに私のことをちゃんと見てくれていたんだなって感じて。天然で深く考えてない感じですが、このメモから優しさが伝わってきたんですよね」
そして未歩さんは指輪をつけ直すと、そのひんやりした感触が失われる前にスマホを手に取り、由伸さんに「やっぱり今日は行けないし、もう個人的なメッセージのやり取りもやめましょう」と告げました。不倫未遂の相手は、怒りをあらわにしたけれど
「由伸さんは、自分の気持ちを弄ばれたと、かなり怒っていました。身勝手な私は当然、何も言い返せず、ただただ『悪いのは私です。本当にごめんなさい』と繰り返すしかなかったです」ですが、すんでのところで不倫の道に足を踏み入れずに済んだことに、未歩さんは安堵しました。
「もし健二が私の指輪を見つけてくれていなかったら……全く違う未来になっていたかもしれない。そう思うと、人生の分岐点ってどこにあるか分からないなって、しみじみしてしまいましたね」
そしてそんな気持ちが顔に出ないように、未歩さんは気を引き締めて健二さんの部屋に向かったそう。

