
近年、「チャイルドグルーミング」という言葉を耳にする機会が増えています。
それは、子どもに優しく寄り添うふりをして信頼を得ながら、手なづけていく行為のこと。SNS上でのやり取りのほか、塾や習い事などを通してターゲットの子どもと接点を持ち、少しずつ信頼関係を築いて性的な加害に及ぶ行為。それがいま深刻な社会問題になりつつあります。
今年4月に発表された漫画『娘をグルーミングする先生』は、チャイルドグルーミングの実態を生々しく描き、社会に警鐘を鳴らす作品です。今回は作者ののむ吉さんに、この作品を描いたきっかけや届けたい思いについて伺いました。
『娘をグルーミングする先生』あらすじ

42歳の佐倉真美は高校に入学したばかりの娘・小春を女手ひとつで育てるシングルマザー。進学校に進んだとたんに成績が落ちてしまった娘に驚き、評判のいい塾に通わせることにしました。


塾に通い始めてしばらくたち、成績も上がって安心していた矢先、娘の小春が「会って欲しい人がいる」と言い出します。連れてきたのはなんと塾長の森先生で、交際の挨拶に来たといいます。森が娘と22歳差の38歳であること、ゆくゆくは結婚も考えているという話を聞いて真美は驚き、反対します。

しかし小春は頭ごなしに反対する母親に反発。それまで母親が忙しくて話を聞いてくれなかったことから、親身になって相談にのってくれる森先生に惹かれていった経緯もあり、親子関係はますます悪化してしまいました。

実は森先生は小春が塾に通い始めた頃から、少しずつ小春との距離を詰めていました。褒める時に頭を撫でる、よく頑張ってるねと声をかける、塾で一緒におにぎりを食べるなど…。父親のいない小春が、いつも見守ってくれる森先生に心を開いていくのに、そう時間はかかりませんでした。

娘の交際宣言に困り果てた真美が友人に相談すると、友人は森先生のことを知るママ友を紹介してくれました。彼女はかつて森先生が小学校で起こしたあるトラブルについて話してくれたのですが、それは驚くべき内容でした。森先生は以前にも、女子生徒への接近で問題になったことがあったのです…。
作者・のむ吉さんインタビュー
――本作のテーマとなった「チャイルドグルーミング」について教えてください。
のむ吉さん:
チャイルドグルーミングとは性的接触、性的虐待を目的とし、大人が子どもを手なずける行為です。意図的かつ計画的に子どもと信頼関係を築き、時にはその家族や地域を手なずけ、グルーミングを行いやすい状況をつくったうえで犯行に及びます。近年ではSNSなど保護者の目の届かない場でのグルーミングが増えており、問題となっているようです。

――この「チャイルドグルーミング」をテーマに漫画を描いたきっかけは何だったのでしょうか?
のむ吉さん:
SNSでグルーミングという言葉を見かけたことがきっかけでした。私自身、未就学児の育児真っ最中のため「もしも自分の子どもが被害にあったら…」と恐怖を感じたのを覚えています。グルーミングはとても身近な犯罪ですが、認知度は低いように思います。そのため、より多くの人に知ってもらいたいと思い漫画を描き始めました。

――もしも自分の子どもが…と思うと恐ろしいですよね。この『娘をグルーミングする先生』で描きたかったことや、今作に込めた想いを教えてください。
のむ吉さん:
グルーミングは身近に潜んでいる犯罪であるということ、自分や大切な人が被害にあう可能性があるということを伝えたくて描きました。登場人物一人一人の人物像を丁寧に描き、ただのキャラクターではなく身近に存在していそうな人物であることを意識しました。それぞれの立場に立った時、「自分ならどうするだろうか…」と考えながら読んでいただけると嬉しいです。
――本作の中で、のむ吉さんの思い入れのあるエピソードや場面を教えていただけますでしょうか。
のむ吉さん:森先生の幼少期のエピソードです。森先生という人物を深掘りするにあたり、担当編集の方の「犯罪者は生まれながらに犯罪者なのか」という言葉に考えさせられ、このエピソードが出来ました。森先生が歪んでしまった背景、グルーミングをするに至った過程を描いていますので、ぜひ読んでいただきたいです。

――最後に、『娘をグルーミングする先生』を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。
のむ吉さん:チャイルドグルーミングは、自分や自分の大切な人が被害にあう可能性のあるとても身近な犯罪です。この作品を読んだ方々の頭の片隅に「グルーミング」という言葉が残ることを願っています。そして、もしこのことで悩む日がきたら「そういえばグルーミングという犯罪があったな」と思い出し、自分や誰かを守るきっかけとなってくれたら嬉しいです。
取材=ナツメヤシ子/文=レタスユキ

