役作りは、岸井ゆきのさんと真逆のアプローチだった
ーー岸井ゆきのさんと初共演された感想は?
宮沢:改めてですが、演じる人によって役へのアプローチが異なるということを強く感じました。
本人もおっしゃっていたのですが、ゆきのちゃんとサチは真逆なタイプなんですよ。僕はどちらかというとタモツに共感できるから、「自分だったらどうするか」という視点でタモツを演じられた。でも、サチに関してはゆきのちゃんとは違う性格だからこそ、色々と試しながらアプローチしていて。そういった役に対するアプローチが真逆だったからこそ、サチとタモツのキャラクターも対照的になったのかなと思います。
役作りに正解はないし、それぞれが自分に適した方法で挑戦していく過程は楽しかったですね。
ーータモツ役を演じる上で、苦労したことはありますか?
宮沢:地元に帰るシーンですかね。そこでのタモツは、サチといる時とは異なる顔を見せます。そのシーンでそれまで見せてこなかった彼の表情や要素が出てくる。普段のちょっと寡黙なタモツが崩れないようにしつつ、地元の友だちとお酒を飲んで浮かれている様子をどう出すかの塩梅に気をつけていました。方言で演技をする難しさも感じていました。
人は変わる。その成長を一緒に喜べる夫婦が理想

ーー最終的にサチとタモツは別れを選びます。なぜそうなってしまったと感じますか?
宮沢:作中ではサチが外で働いて、タモツが司法試験の勉強をしながら自宅で家事・育児を担当しています。サチから見たらタモツは家でゆっくりしているように見えるし、子どもと一緒にいられて羨ましいと思う。でも、タモツはタモツでいっぱいいっぱいの毎日で。
逆にタモツから見たらサチは、外で働いていて人生が楽しそうに見える。でもサチは一家を支えなければならないプレッシャーもあるし、仕事のストレスもある。
お互いがどういう気持ちでいるかわからなくなってしまっていたから、お互いのちょっとした言葉でイライラしてしまうし、お別れという結末を迎えたのかなと感じます。
ーー二人が別れないためにはどうすれば良かったのでしょうか。
宮沢:きっとタモツの中で「サチはこういう人」というのがアップデートされていなかったのだと思います。勝手に「サチはこうだから」「サチはこうするはず」「サチはこれくらいのこと許してくれる」と思っていて。それはサチからタモツに対して同じ。
でも、人はいろいろな経験を経て変わっていくじゃないですか。本当は相手は変わっているのに、その姿がお互いアップデートされていなかったのが、サチとタモツなのだと思います。
だからお互いがいざ必要な時や、食い違いが生じた時に「サチは変わってしまった」「タモツは変わってしまった」と感じてしまう。もう存在しない人物像に自分の理想を当てはめてしまっているんです。お互いの成長を一緒に喜んだり、辛い時は一緒に悲しんだりする時間がもっと必要だったのではないかと思います。
ーー大切な人とすれ違わないためにはどうしたら良いのでしょうか?
宮沢:僕も教えて欲しいです(笑)。ただ、普段から意識しているのは言葉遣いです。これは誰に対してもですが。
ちょっと自己中心的なのかもしれませんが、人と喧嘩をしたくないんですよ。だから喧嘩になるようなワードは言わないようにしているし、ちょっとおかしいなと思っても、思っていることを全部言わない。…ただこれって、サチとタモツのような結末になる可能性も十分ありますよね。言葉で伝えないとわからないこともたくさんあるので、自分が悪者になったとしても、ちゃんと気持ちは伝えていかないといけないのかもしれません。
ーー夫婦や結婚って、つくづく難しいなと感じます。
宮沢:特にタモツとサチの場合は、結婚したからこそ、この先二人で一緒にいることは無理なんだと気づけました。結婚は、二人の関係性の答えを導き出すための手段であり過程だったと思うんです。結婚していなかったらその答えは出てこなかったかもしれないですよね。だからタモツとサチの結婚は、決して間違いだったわけではないと思います。

