逃げ得?「死亡ひき逃げ」の時効、なぜ廃止されないのか、小4男児死亡の時効完成まで残り4年切る

逃げ得?「死亡ひき逃げ」の時効、なぜ廃止されないのか、小4男児死亡の時効完成まで残り4年切る

●時効撤廃にはどんなハードルがある?

──死亡ひき逃げの時効を廃止または大幅に延長する際の課題は何ですか。

死亡ひき逃げの時効廃止が容易ではない理由の1つは、おそらく救護義務違反の前提となる自動車運転過失致傷が「過失犯」であり、もともと法定刑がそれほど高くないことです。

犯罪は、大きく「故意犯」と「過失犯」に分かれます。

故意犯(殺人・傷害など)は、「わざ」と犯罪を実行するため、非難の程度が強く、法定刑も高く設定されています。

一方、過失犯(過失致死傷など)は、犯罪の意思がなく、「うっかり」して注意義務を怠ることで成立することから、非難の程度が低く、法定刑も軽く設定されています。

ひき逃げでは、「逃げた」部分(救護義務違反)は故意犯ですが、「ひいた」部分は過失犯です。

また、人身事故の多くは、危険運転致死でなく自動車運転過失致死で処理され、同罪のみなら執行猶予になるケースが圧倒的に多いです。

強盗や傷害など、より悪質で法定刑も高い故意犯ですら時効が廃止されていない中で、ひき逃げだけを廃止・延長することには「刑罰体系上のバランス」の問題も生じます。

立法的な選択肢として、時効を廃止または大幅延長し、「逃げ得」を許さない制度改革は重要ですが、ひき逃げの量刑がそれほど高くないこと(自動車運転過失致死だと3年前後、危険運転致死でも10年前後)を踏まえると、他の犯罪とのバランスをどう調整するかが大きな課題となります。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/

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