●実際にいくらくらい請求できるのか?
前述のように、裁判例ではセックスレスだけではなく複合的な要因が重なって慰謝料請求が認められているため、「セックスレスの慰謝料は●●円」という形で示すことは不可能であることを前提に、いくつかの裁判例をご紹介します。
東京地判平成29年8月18日:
婚姻中に性交渉その他の性的接触がなかったことにより、婚姻関係が破綻したとして、妻から夫に対する50万円の慰謝料請求を認めました。
岡山地裁津山支判平成3年3月29日:
昭和61年9月に結婚したが、妻が婚姻後から性交渉を拒否し、昭和63年6月に協議離婚したケースで、慰謝料として150万円の損害を認めました。
京都地判平成2年6月14日:
昭和63年4月に婚姻届出をしたが、6月に家を出て別居、7月に協議離婚をしたが、その間一度も性交渉がなかったことについて、「婚姻生活が短期間で解消したのはもっぱら被告にのみ原因がある」として、諸般の事情を考慮した上で500万円の慰謝料を認めました。
これらの裁判例が示すように、認められる金額は個別の事情によりバラバラです。もちろん、慰謝料請求が認められないケースもあります(先ほども書いたとおり、夫婦間でも性的意思決定の自由は当然にあるわけですから、性交渉拒否が正当な理由に基づくケースも多々あるでしょう)。
上ではごく簡単な事例紹介にとどめていますが、実際には複雑な事情がありますので、金額や、それ以前にそもそも請求が認められるのか疑問がある場合には弁護士に依頼することをお勧めします。
●セックスレスを原因とした離婚を検討する場合に、何をすべきか?
性交渉拒否の期間とそのときの様子の記録:
性交渉がない状態がいつから、どのような理由で続いているのか、拒否に至るまでの経緯や相手の対応を詳細に記録しておくべきです。日記などでもかまいません。
夫婦間のコミュニケーションの証拠化:
性生活について話し合いを試みたが拒否された、あるいは話し合い自体を避けられたという事実を、メールやLINEなどの書面やデータとして残すことが証拠となりえます。
その他離婚に至った事情の証拠化:
性交渉拒否だけで離婚原因となることは少ないため、その他の事情があれば、メールやLINE、日記などで残しておくべきです。
弁護士への相談:
先にご紹介したように、セックスレスが離婚原因や慰謝料請求の根拠となるか、また金額がどの程度になるかは、個別の事案の具体的な事情によって大きく判断が分かれます。離婚問題に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
(参考文献)
1)判例ケーススタディ いますぐ使える離婚事件実務(日本加除出版、2021年/第一東京弁護士会全期会)
2)離婚判例ガイド〔第3版〕(有斐閣、2015年/二宮周平、榊原富士子)
3)判例にみる慰謝料算定の実務(民事法研究会、2018年/升田純)

