
連続テレビ小説「ばけばけ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)で、島根県知事・江藤安宗を演じている佐野史郎からコメントが到着。佐野は、意外にも今回が初めての朝ドラ出演。しかも、自身の出身地の島根が舞台の作品ということで、喜びもひとしおの様子。江藤について、また、小泉八雲の作品の朗読を18年間続けている佐野から見た「ばけばけ」の印象などが語られた。
■怪談を愛する夫婦の何気ない日常を描く
本作は、主人公・松野トキ(高石あかり)が夫・ヘブン(トミー・バストウ)と共に、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治の日本で、“怪談”を愛しながら何気ない日常を過ごしていく物語。文学者・小泉八雲と妻の小泉セツをモデルにしつつも、登場人物や団体名などは一部改称し、大胆に再構成してフィクションとして描いていく。
佐野が演じている江藤安宗は、島根をこよなく愛し、日本が誇る一流の県へ押し上げようと情熱を燃やしている県知事。「これからの時代を担う若者たちには英語教育の充実が不可欠」と考え、外国人教師としてヘブンを島根に招いた人物でもある。

■「最初、台本を読んだ時、江藤はえらくとぼけた人だな、と(笑)」
――今回、初の朝ドラ出演になります。決まったときの感想を教えてください。
僕は島根県・松江市出身で、これまでも「だんだん」や「ゲゲゲの女房」など島根を舞台にした朝ドラは何本かありましたが声がかからなかったので、「もう朝ドラには出ないんだろうな」と思っていました(笑)。でも、今回「ばけばけ」のお話をいただき、このためにこれまで出演することがなかったんだと思いましたね。
僕は、小泉八雲のひ孫の小泉凡さんの監修のもと、奥様の祥子さんのプロデュースで小泉八雲の朗読を18年続けているのですが、昔から小泉八雲とセツのドラマをいつかやりたいという話をNHK松江局でもしていたので、今回「ばけばけ」の制作発表があった時は、みんなも喜んでいましたし、僕もお声がけいただけてうれしかったです。
――江藤安宗は、どんな役ですか?
江藤の直接のモデルではありませんが、小泉八雲を教師として招へいした籠手田安定さんは、滋賀、新潟、島根の知事を務められた立派な方で、武術の達人でもあり、質実剛健のイメージを持っていました。だから、台本で最初に江藤という役を読んだ時は、えらくとぼけた人だなと(笑)。でも、島根をこよなく愛し、西洋近代文明をいち早く取り入れるところは、ちゃんと押さえられていますね。
実は、当時の知事は国から遣わされていて、籠手田さんも長崎出身。出雲ことばはほとんど話さなかったと思います。ですが、松江の人間である僕が知事役を務めることもあり、ドラマでは松江出身の島根愛の強い人物像の設定となりました。地元の人に「変な出雲ことばだ」と言われるのは嫌なので、実は相当プレッシャーを感じています。
近代化を促していきたいんだけど、異国の人に思いを寄せる娘のリヨ(北香那)のことは心配、という、混迷していた時代の中で近代化推進と伝統を重んじる価値観を同時に持つ人物だとも思います。僕にも娘がいるので、心情がわからなくはないし、フィクションと現実が重なるような気持ちになったり…。小泉八雲の朗読を続けていることも含めて、「ばけばけ」というドラマを生きるだけでは収まらない、現実とフィクション、現代と明治の時代を同時に生きているような感覚でいます。

■「高石あかりさんの大らかな感じは、トキにぴったり」
――小泉八雲を長年朗読されてきた佐野さんから見て、「ばけばけ」という作品の印象はいかがですか?
僕は研究家ではないけれど、それなりに小泉八雲に関する書籍を読んできているので、大体の流れは把握しているつもりです。それでも、知らないような深いところを掘り下げていて、すごくしっかりして筋が通っている。もちろんフィクションだから事実と違ったりデフォルメしたりしている部分もありますが、本質から逸脱することはありません。ある程度、ヘルン(=小泉八雲)とセツのことを知っている人でも、このドラマを見たら、「そこまでやるんだ!」という感じは、お受けになるのではと思います。
実際のセツさんがどんな方だったのかはセツさんが記した「思ひ出の記」などから想像するしかないのですが、怪談や本を読むのが好きな、いわゆる“怪談オタク女子”的な感じがしています。もしご存命であったら、きっと仲良くなれるんじゃないかな(笑)。そんなセツをモデルにした松野トキに、高石さんのあの大らかな感じがこのドラマにおいてピッタリだなと感じています。
ヘブンを演じるトミーさんは、よく研究なさっているなと思います。実際のヘルン(八雲)さんを見たことがあるわけではありませんが、たたずまいはもちろん、その気性といいますか、決して優しいだけの男ではないコワモテなところも表現されていて、流石にロックバンド“FranKo”を率いているだけのことはあるなあと敬服しています。
西田千太郎がモデルの錦織を演じる吉沢亮さんは、芝居を交わすたびに、その正直で真っすぐな姿勢に惹き込まれてしまいます。錦織が抱える後ろめたさや引き裂かれるような思いは、実は影の主役というか、近現代の日本が抱えてきた歴史の闇を代弁しているようにも感じています。
――ドラマの見どころと視聴者へのメッセージをお願いします。
「ばけばけ」の登場人物は、みんなが誰かを思いやっています。今、自分の権利や立場を主張してばかりで、相手を攻撃するようなことが増えているように感じることも少なくありませんが、価値観が変化していく中で、“人にとって大切なものとは何か”ということを改めて問いかけている2人の物語であり、2人を取り巻く登場人物たちも葛藤しています。その答えは簡単には出せないものかもしれないけれど、現実を「怪談」というフィクションとして捉えることができれば、救われることもあると思います。
今回のテーマは、価値観の違う者同士がどうやったら一緒に共存できるのかということを諦めずに生きていきませんか?という問いかけだと思います。江藤を演じながら、“役柄と自分自身”という葛藤とも重ねて、常にそのことを問われ続けているように感じています。そのことを視聴者の方々とも共感できたらと思っています。松江出身の俳優として、また江藤知事としても、視聴者の皆さんに古(いにしえ)よりの歴史の残る松江に興味を持っていただき、松江を訪れていただけるようになったらうれしいですね。

※高石あかりの「高」は、「はしご高」

