足立区の11人死傷事故「もはや殺人罪では?」との声も 適用の可能性はある?

足立区の11人死傷事故「もはや殺人罪では?」との声も 適用の可能性はある?

●精神疾患報道も。罪にはどう影響する?

ただし、刑事責任を問うには、本人に「責任能力」があることが前提となります。

責任能力とは、簡単に言えば「自分のしていることが良いことか悪いことかを判断でき、その判断に従って行動できる能力」のことです。

男性は、精神疾患を抱えて6年前から通院していたとの報道もあり、捜査機関が責任能力の有無について捜査を続けているようです。

ここで注意が必要なのは、仮に精神疾患があったとしても、自動的に「無罪」になるわけではない、という点です。むしろ裁判所の判断は厳しく、精神疾患があっても責任能力が認められるケースが多いのが実情です。

●「心神喪失」と「心神耗弱」の違い

「責任能力」が刑罰に影響する場合としては、「心神喪失」(しんしんそうしつ)と「心神耗弱」(しんしんこうじゃく)があります。

まず、責任能力がまったく認められないのが「心神喪失」です。

精神の障害のため、善悪を判断する能力や、判断に従って行動する能力が完全になくなっていたことをいいます(刑法39条1項)。

この場合は無罪となりますが、「単に精神疾患がある」というだけでは足りず、事故にどの程度影響したのかが厳密に検討されます。

次に、責任能力が限定的にしか認められないのが「心神耗弱」です。

精神の障害のため、善悪を判断する能力や、判断に従って行動する能力が著しく低下していたことをいいます(刑法39条2項)。

この場合は、刑が軽くされますが、「著しく」低下していることが要件で、こちらも精神疾患があるというだけでは認められません。

仮に精神疾患があるという診断を受けていても、運転を自分の意思でおこない、危険を認識できていたなら、責任能力があると判断されるでしょう。

実際の裁判で「精神疾患がある」と認められた場合でも、心神喪失や心神耗弱とされるのは、ごくまれです。

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