風と時間の気まぐれに晒され続けて - ROSALÍA『Reliquia』|カワムラユキ

風と時間の気まぐれに晒され続けて - ROSALÍA『Reliquia』|カワムラユキ

誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。

 

 

いつも、あの光に噛まれる

看板の脈動は、皮膚の下を走る電流に似て、

雑踏は巨大な肺のように膨らんだり縮んだりして

 

耳に落とした歌が、世界の表面を一枚だけ剥ぎ取った

露わになった断面には、かつての君と僕が薄い影となって棲みつき、青黒い息を吐いている

 

数分おきに開かれる新しいパーティみたいな交差点は、祈りを忘れた祭壇と喩えて

胸の奥で想像力の裂け目を抱えたまま、大切に抱いた骨の音を頼りに時空を彷徨う

 

歌声は記憶の破片を舌で転がすような震え、リズムは乾いた階段の匂い、夜明け前の空気に混じった焦げた甘さ、二度とは会わない名前すら忘れた誰かと別れた直後の、軽いような重いような歩幅とか

 

波動に絡め取られず諦めを忘れたはずなのに、足元から冷たい闇となって湧き上がる何か

 

この街は、君の遺跡

保護もされず、説明板もなく、ただ風と時間の気まぐれに晒され続けて

欠けたままの記憶は、路地裏の落書きみたい

 

昔の君がぽろぽろと零れ落ち、傷ひとつない掌をすり抜けて、ありふれた夜へと沈んでいく

 

夜の深みへ沈み気づくことは、街はとうに変わったのに、君と僕の内側の“遺物”だけが、まだ熱を持っている

 

それは呪いかもしれないし、祝福なのかもしれない

 

どちらにせよ、生きている証拠としては、あまりに美しい

 

 

Rosalia『LUX』(2025年、Columbia)

配信元: 幻冬舎plus

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