古典落語
ー 2つ目の質問です。「真打襲名以降の独演会を拝見すると、古典落語に力を入れていらっしゃるように感じます。現在、ネタおろしに向けて準備している噺などはありますか」
小痴楽:そうですね、僕はネタを増やすという作業が凄く苦手なんです。この世界では致命的なんですが(笑) 次々とどんどんとはネタは覚えられない。20年ほどの芸歴の中でたくさんのネタを覚えようと頑張って二回ほど挑戦しましたが、僕の性格に合わない。むしろじっくり一つのネタを覚えたら、じっくりやり続ける。腹に落ちたら次のネタに行くという感じです。
どのネタを覚える際も、登場人物の中から特定のキャラクター一人に共感することを大切にしています。全員に共感する必要はなくて「このキャラクターのこういうところが好き」と感じてから噺を覚えるようにすることなどを、僕なりの「ネタ選び」の基準としています。現在、毎年1、2回しか上演できない『文七元結(ぶんしちもっとい)』というネタがあります。非常に長尺なため、なかなか演じる機会がありませんでした。しかし、一昨年ごろから毎年このネタから逃げずに向き合ってみようと考えて、今は常にそのことを念頭に置いています。新しい挑戦ではありませんが、現在の僕の課題です。

その他では、今のこの時期ですと、今年の正月から寄席の「顔見世興行」である初席(はつせき)のトリを務めさせていただいています。来年の正月もそうなんですが。正月のネタとして、小遊三師匠からいただいた「初夢の噺」に取り組んでいます。
真打になってからは「季節もの」のネタに手をつけることが増えました。「春のネタ」などもそうです。独演会にお呼びいただいた際には、「落語で四季を感じていただく」ことは非常に良いことだと思っています。季節もののネタはその季節にしか演じられないため、「コストパフォーマンスが悪いな」と考えていた時期も正直ありました。もうそのようなことは言っていられませんので。お客様にその季節ならではの楽しみを提供できるように、きちんと自分も覚えていこうという風に認識が変わりました。
十八番
ー 最後です。「高座で1番かける回数が多かった演目はなんですか」
小痴楽:それは… 「湯屋番」ですかね。若旦那が番台に上がって妄想するっていう噺なんですが。これはもう、地でいけます(笑)
ー 師匠は自身の個性「ニン」が大事だと仰ってますよね
小痴楽:そうですね、僕の中にも色んな面があります。自分で言うと少しナルシズムに聞こえてしまうかもしれませんが、落語には多彩なキャラクターが登場します。「与太郎」のような純朴な部分もあれば、「生意気な子供」のような部分もあります。「若旦那」もそうですし、少し変なところで融通がきかない「堅物な若旦那」の面もあります。遊び人風の「柔らか者の若旦那」の面も持ち合わせています。また、喧嘩っ早いので「棟梁」や「兄貴分」のような気質もあります。「八五郎」や「がらっぱち」といった威勢のいい面もあります。客観的に見て、落語に出てくる主要な登場人物の感覚は、比較的持っている方ではないかなぁと思っています。まだまだ未熟ではありますが、そう感じています。
ただ「泥棒」と「隠居」だけはキャラクターにはない。もちろん「泥棒」はない方がいいんですが(笑)
ー (笑)
小痴楽:物を知らなすぎますし、落ち着きもないので、「隠居さん」のような役柄はまだ務まりません。今後、いつになったら隠居の「ニン」(役柄に合う雰囲気や性質)を持てるようになるか、といったところでしょうか(笑)。そういった自身の性質もあるので、ネタ選びは自然と今のような傾向になります。

12月3日音更初開催!「柳亭小痴楽 落語独演会」
ー12月3日音更公演。十勝での独演会は初めてですか
小痴楽:メインの演者としては、初めてだと思います。付き人としては、歌丸師匠や小遊三師匠、六代目円楽師匠の高座で伺った経験はあります。僕はこの20年間で行った場所、演じたネタ、日付をメモ帳に記録していますが、「十勝」という地名は何度も書いたことがあります。ただ、「音更町(おとふけちょう)」については、どうやら記録がないようです。読み方も知らなかったくらいですから。初めての訪問だと思います。まず間違いないです。
ー 音更での独演会。見どころは?
小痴楽:そうですね、見どころについては、独演会ですのでおそらく二席か三席になるかと思います。少し長い噺を二席演じるのか、それほど長尺ではないネタを三席演じるのか、当日にならないと決めません。高座に上がってから決める、というスタイルです。大まかには考えていますが、どれにするかはまだ決めていませんので、「このネタをやりますので聴きに来てください」とは断言できません。ただ初めて落語を聴く方でも、「ああ、落語ってこんなに分かりやすいんだ」と感じていただけるような演目を必ず入れるつもりです。難しくない噺をやると思います(笑)。あとは、「まくら」(本題に入る前の導入部分)が僕の癖で長くなってしまうこともありますが、そちらも楽しんでいただければと思います。
ー 「まくら」もとても見事ですが、ご自身は「苦手」意識があると
小痴楽:苦手だから長くなってしまう、というところもあります。なんとなく僕の人となりを知っていただいた上で、落語を楽しんでいただくというのが、僕の独演会ではいつもの流れです。そういう意味でも「立派な落語家を観る」というよりは、「あんな人間でも生きているんだな」ぐらいの感覚で、気軽に楽しんでいただけたらと思っています。
ー すべて本音のまくらと、正統派の古典落語とのギャップが最高です
小痴楽:だいたい、コンプライアンス的に問題があるからですね(笑)
ー 好きな映画が『仁義なき戦い』と知り、納得しました
小痴楽:「いい加減にしろ」とよく言われます(笑)
ー 落語ファンの方は正当な江戸弁、江戸落語が楽しみだと!
小痴楽:ありがたいことです。そうですね。私は現代人なのに、「まくら」では現代的な言葉を使えるのに、なぜか落語本編では現代言葉が全然使えなくなってしまう、ということがあります。普段も少々ぞんざいな喋り方なので、そういう意味で「江戸弁」と呼べるほど詳しいわけではありませんが、せめてその時代の空気感を出せるように、日々努力しております。
大注目の若手真打、江戸落語の奇才「柳亭小痴楽 落語独演会」は2025年12月3日(水)午後6時開場、6時半開演。場所は音更町文化センター大ホール。落語界期待の星、小痴楽師匠に会えるこの機会をお見逃しなく!

柳亭 小痴楽 落語独演会|北海道十勝 音更町:https://www.town.otofuke.hokkaido.jp/kyoiku/bunkacenter/kochiraku.html

