参考人がキレた、証人に逃げられた…検事が語る、取調べの修羅場と調書作成の恐ろしさ|村上康聡

参考人がキレた、証人に逃げられた…検事が語る、取調べの修羅場と調書作成の恐ろしさ|村上康聡

起訴した事件の有罪率は99%以上、巨悪を暴く「正義の味方」というイメージのある検事。

取調室での静かな攻防、調書づくりに追われる日々――華やかなイメージとは裏腹の検事のリアルな日常と葛藤を、検事歴23年の著者が語り尽くす。『検事の本音』、その真意とは。本書より、一部を再編集してご紹介します。

*   *   *

検事と参考人の悩ましい関係

もしあなたが、何らかの事件が発生したとき、目撃者であったり、現場付近にいたり、あるいは被疑者や被害者の知人であるなど、事情を知っていると思われた場合、警察から出頭を求められ、参考人として事情を聞かれて取調べを受けることになる。

そのうえ、参考人は、検事からも再び取調べを受けることになる。

そんなとき、参考人の口から思わず不満が発せられることがある。

「警察で話したのに、なぜまた検事が調べるのか」と。

検事が参考人を取り調べるのは、被疑者が否認している場合や、認めていても起訴する可能性の高い事件の場合である。

そんなこともあり、私は検事時代、トラブルを防ぐために、参考人の呼出しの連絡は警察を通じて行うようにしていた。警察に説明してもらった方がうまく対処できることが多いからだ。

「検事が聞きたいと言っているから、悪いけど、行ってくれないか」

警察は参考人のご機嫌をとるわけでもないだろうが、いちいち説明するのが面倒なのか、こんな言い方をするらしい。

「行き帰りは警察で車を出すから」

そんなことを警察に言われて、しぶしぶ応じる参考人もいる。

参考人の供述は、有罪の立証にとって非常に重要である。

参考人の中には、わざわざ仕事を休んで検察庁に来てくれる方や、遠方から時間をかけて来てくれる方もいる。

そのために、もし参考人が感情を害して「もう帰る」などと言って本当に帰ってしまうと、被害者に取り返しのつかない甚大な迷惑をかけてしまう。

ゆえに、検事は、参考人の取調べには、いつも以上に腫れ物に触るように気を遣い、慎重に行う。参考人の機嫌を損ねたら、捜査に支障を来すことになるからだ。少なくとも、私はそうであった。

参考人が来たら、待合室で長く待たせることは失礼になるので、できるだけ早く立会事務官に待合室に行ってもらい、労いながら部屋に連れて来てもらう。

部屋に入ったら、私は、記章を着けた背広姿で立って出迎え、頭を下げて労い、事務官に熱いお茶を出してもらう。

こうして礼を失することのないようにして、取調べを始めるのだ。

協力か反発か――参考人が最も荒れやすい瞬間

その際、検事は、参考人が目撃した事件の内容について、決して誘導したり、決めつけて質問したりしてはならない。

事件の解決のために、参考人の供述はとてつもなく重要だ。であるからこそ、検事は、供述の信用性を仔細に検討しながら取調べを進めていく。

その間、参考人にもよるが、捜査に協力的な人もいれば、中には「警察に話したのに、なぜ検察庁まで来て同じことをまた話さなければならないんだよ。いつまで警察と同じことを聞くんだよ。こっちは忙しいのにわざわざ来てやっているんだ。早くしろよ」と憤ったり、「これで終わりだろうな。なんでこんなことをしないといけないんだよ。俺は裁判では証言しないからな」と怒鳴る者もいる。

参考人も仕事をしている方が多いので、検察庁で取調べを受けるのは平日の夜か、休みの日に限られる。また、参考人は、そのことを家族や職場にも内緒にしていることも多い。

そんなときは、往々にして、「早くしてほしい」「なぜ検事がまた聞くのか」「裁判での証言は嫌だ」という〝三点セット〟を言われることが多い。

相対する検事にとってもまた、限られた時間内で、供述内容をまとめて事務官に口授して調書を作成するのは、かなりの緊張感と焦り、ストレスを覚えることになる。

参考人の中には被害者もいる。

被害に遭ったのであれば、しっかり犯人を処罰してもらいたいということで協力すると思われがちだが、中には、警察に訴えれば犯人から示談金がもらえるから、適当に被害状況を警察に話すだけの不心得者もいる。

検事は、参考人の語る内容が事実であるか、その見極めが大切だ。

被害者、参考人は皆、検事に全面協力してくれると思ったら大間違いである。

配信元: 幻冬舎plus

提供元

プロフィール画像

幻冬舎plus

自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。