
ABEMAにて放送中で、大きな反響を呼んでいるドキュメンタリーバラエティ番組『世界の果てに、くるま置いてきた』(毎週日曜夜9:00、ABEMA)。令和ロマンのくるまが南アジアをひたすら縦断する姿を捉えた本作は、予定調和を排したリアルな旅路と、むき出しの人間ドラマで視聴者を惹きつけている。
そしてくるまとともに旅をするのが、ディレクターの大前プジョルジョ健太氏だ。どんなハプニングがあっても飄々とした笑顔で乗り切り、生配信では視聴者から編集の遅れをツッコまれるなど、その愛すべきキャラクターも注目を集めている。しかしその素顔は、日本とオーストラリアの二拠点生活を送り、「家がない」と語る異色のクリエイター。そんな彼が、この過酷な旅をどのように撮影し、視聴者の心を揺さぶる物語へと昇華させているのか。番組制作の裏側から、ゼネラルプロデューサー・高橋弘樹氏からの金言、そしてくるまとの衝突まで、赤裸々に語ってもらった。
■「家は本当にないです」謎多きディレクターの私生活と、異国で育まれた価値観
――番組を拝見して、大前さんの注目度もどんどん上がっていると感じます。令和ロマンのYouTubeなどで「家がない」と話されていましたが、普段はどのような生活をされているのでしょうか?
家は本当にないんです(笑)。もちろん法律的にセーフな範囲でやっていますが、住民票は大阪の実家に置いていて。あとはオーストラリアにも、ビザを取っているので拠点があるという感じです。日本とオーストラリアの二拠点生活で、割合は半々くらいですね。本当はずっと海外にいたいと思っています。
――いつ頃から二拠点生活を?
去年の8月からですね。この番組が終わったら、また海外に行く予定です。しばらくは二拠点生活を続けると思います。
――今は日本にいらっしゃると
はい。今は、この番組のゼネラルプロデューサーである高橋(弘樹)さんのご厚意で、アパートの一室をお借りして生活しています。
――今回の旅でくるまさんに密着して番組を作る上で、特に意識されたことはありますか?
これまで自分が番組を作ってきた中で、演者さんと一緒に旅をする企画が初めてで、どうやってやるかすら分からない状況でした。ただ旅の前にくるまさんの本などを読むと、ミニマリストでロジカルな印象とは裏腹に、意外と弱音を吐いたり、抜けている部分が見えたんです。なので、彼の強さだけじゃない、人間的な部分が出たらいいなと思っていました。
くるまさんのようにすぐにChatGPTを活用するのは、僕自身はあまりやらないスタイルですが、機械に頼ることもまた強さであり弱さでもある。それが令和の新しい旅の形なのかもしれないし、そういった部分も含めて彼の人間性を描きたいと考えていました。

――第6話、7話では旅の方向性を巡って、くるまさんと衝突もありました。あれは旅で限界を迎えていた、くるまさんの弱い部分が出てきたのでしょうか
そうですね。同時に思ったのは、くるまさんもその弱さや強さがある上で、自分にも弱さがあるな、ということです。くるまさんは「バングラデシュの新たな一面を見せた方がいい。異国情緒だけを扱うのは違うのでは」とロケに問題提起してくれましたが、僕自身は作り手として、異国情緒を感じられる側面をどこかで探そうとしてしまう。その意識が強いことに関して、旅を通して改めて自戒の念を抱きました。ただ逆に、そうは言ってもそういう部分を見せないとな、という葛藤もあります。
くるまさんが言うことが正しいのかもしれない。でも、やっぱり僕はそういう部分が好きなんです。視聴者にもそれを求めている人が一定数いますし、逆にくるまさんの意見に賛成している方もいる。ディレクターとして海外を扱う上で、今後どう向き合っていくべきか、大きな宿題ができたと感じています。
――そもそも、そういった海外の、特に貧困などにスポットを当てるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
自分の父親が無職だった時期が長かったことと、母親がインドネシア人だったことが大きいですね。母はCAだったんですけど、父と結婚して日本に来ました。もちろん恋愛もあったと思いますけど、母としては当時インドネシアより日本に来たほうが安定するという思いもあっただろうし。お金というテーマは割とダイレクトにありました。
母の実家はコンクリートではなく土の家で、僕が訪ねると飼っている鶏を絞めてご馳走してくれるんです。それは彼らにとって貴重な収入源のはずなのに。そして僕がバイトで稼いだ1万円を渡すと、向こうでは何十万円もの価値になる。そういう生活の違いを小さい頃から目の当たりにしてきたので、貧困をあえてクローズアップしているつもりはないんですが、物心ついた頃から身近にあるものでした。


――どんなハプニングがあっても淡々と、時には笑いながら報告される姿が印象的です。第6話では「暗いバスに乗ってみたら、麻薬を売っていた」と報告する場面もありましたが…
いや、あれは困ったんですよ(笑)。ロケには通訳や他のスタッフもいるんですが、誰もあのバスには乗ってくれなくて。通訳は何か感じ取ったのか「このバスだけは絶対に乗らない」と。困ったので、僕一人で乗ったんです。本当は撮影まで行きたかったんですが、何かあったら大変なことになると思い、無茶はしませんでした。
僕の中での「ヤバい・ヤバくない」の線引きはあって、彼らは実はヤバかった方だと思っています。危ない組織でも上層部なら統制が取れていて逆に安全ですが、バスにいたのは末端みたいな連中に見えて、何をされるか分からない。そこらへんは逆に危ないんですよ。なので、その中でも線引きはしています。
――その線引きする位置が、人とは全然違うところにあるんですよね。本当は番組上、乗らなくても良いバスだったはずですし…
その時は、久しぶりに一人行動になって、テンションが上がってたのかもしれないです。本当はよくないんですけどね(笑)。
――旅の中で一番焦ったことは何ですか?
やはりくるまさんと方向性が違った時ですね。経験豊富なディレクターなら、そこを客観視して上手く描けると思うんですが、僕はまだまだ青二才で。経験値が少ない中で、うまく修正するのが難しいこともあった。もっとちゃんとぶつかって、それも含めて描くべきだったと反省するところがあります。
ただそれが、ひろゆきさんや東出さんが合流して間に一人入ってくれることで、また状況が変わりました。彼らが間にいることで、僕とくるまさんの本音がうまく引き出されて、言える状況を作ってくれたんです。特にひろゆきさんは、番組への愛がすごくて。本人は「そんなことないよ」とおっしゃっていましたが、まるで“座長”のようでした。初めてのメンバー構成だったので、「俺が何とかしなきゃ」と思ってくれていたようです。

■編集に時間がかかってしまう理由
――編集が間に合わず全8話予定だった話数が伸びているそうですが…
今、全13話予定です。年内にギリギリ終わる話数です(笑)。ABEMAさんだからこそ許されるというか、僕も目の前のことを必死にやっていて、よくわからないまま一緒に暗闇の中を走っていただいているような感じです。そういう意味でも感謝しています。
――編集で特にこだわっている部分はどこでしょうか?
ゼネラルプロデューサーの高橋さんの存在が大きいです。僕にとっては雲の上の人で、足元にも及ばないくらいすごい方。その高橋さんから教わったことを僕が実践しようとすると、どうしても時間がかかってしまいます。
高橋さんから頂いた言葉は付箋に書いて、ノートに全て貼っているのですが、特に印象的だったのが「旅情感を出すためには“境界”を撮ることが大事だ」という言葉です。例えば、土の道からコンクリートの道に変わる瞬間、ホテルに出入りする瞬間。そういう場所や状況が変わる“境界”をシームレスにつなぐことで、旅をしている感覚が生まれるんだと。
撮影は一日20時間以上撮っていて、一台のカメラだけでなく、車を追走しているカメラなどを含め3~4台分、一日だけで合計40時間以上の素材が回っているんですが、それを意識して早送りせずに全部見ています。
――40時間以上の素材を全部等倍速で見ているんですか!?
はい。旅をしたからもう見ないとかではなくて、境界線だとか旅の最中には気づかなかった表情や変化が必ずあるって、高橋さんがおっしゃっていて。それを意識していくとものすごく時間がかかりますね。
また、よくご指摘いただくのは、旅で感じたのが100%だったら、映像で見たときに140、160、200%を目指さないと、旅で実際に感じた時よりも下がってしまうと。旅をしてるときにはつぶさに見られないものを、編集だと俯瞰で全部見られるので、そこをつぶさに拾っていく。
表情の変化というのも多分境界なんだと思います。風景だけじゃなくて、息遣いとか間とか、顔の表情もその境界っていうのを意識すると、旅感、旅情感が出るよっておっしゃっていただいて。そう考えると、もう自分も分からなくなってきて、時間がかかってしまうんです。
「ロケだと思うな、旅だと思え」とも言われました。僕もつい「ロケ」と言ってしまうんですが、その意識だと旅情感は出せない。自分自身も旅に没入しないといけないんです。


――最後に、今後行ってみたい国や、日本で取材したいテーマはありますか?
タジキスタン、トルクメニスタンなど「スタン」がつく中央アジアの国々には行ってみたいです。イスラム文化やキリスト文化など様々なものが混じり合った場所で、まだ見たことのない生活様式があると思うので。
日本国内では、移民問題に関心があります。僕の母はインドネシアからの移民ですし、僕自身もオーストラリアへの移民。その当事者だからこそ、僕がやるべきテーマなんじゃないかと勝手に思っています。誰に求められているわけでもないんですけどね(笑)。

