時短でも丁寧でもない「新時代の家庭料理」 ー両極を超えて暮らし方を提案する長谷川あかりの挑戦ー

時短でも丁寧でもない「新時代の家庭料理」 ー両極を超えて暮らし方を提案する長谷川あかりの挑戦ー

時短ブームの"揺り戻し"を読んだ眼


長谷川の特徴は、時代の潮流を鋭く読み取る視点にある。彼女は料理家になろうと決めたとき、ある予言を立てていた。

「時短・簡単の大ブームから、また揺り戻しが絶対来ると本気で思っていた」

その予言は的中した。せいろブームに象徴されるように、時短・簡単を追求する流れから、手間をかける料理への回帰が起きている。長谷川はこの変化を「体験価値」というキーワードで説明する。

「若い世代もタイパ・コスパみたいな思考に少し疲れてきたんじゃないかな。抹茶を立てるとか、美術館に行くとか、ただ消費するんじゃなくて、体験に価値を見出す動き。その中で料理が体験の領域に入ってきた」

長谷川の料理は、まさにこの「体験」を提供する。「作った人が『長谷川あかりの料理を作った』と周りに言いたくなるくらい、私の料理を作ったという体験が大事だと思ってもらえたら」。彼女のフォロワーがSNSで「#長谷川あかり」とタグをつけて料理を投稿するのは、単なるレシピ再現ではなく、一種の体験の共有なのだ。

この視点は、師匠である有賀薫からの影響も大きい。スープ作家として知られる有賀は「料理を簡単に済ませたい気持ちと、料理を楽しみたいという気持ちの両方を満たしてくれるスープのレシピを使って、忙しい現代人の生活に寄り添う暮らしの提案をしてきた」と長谷川は語る。「そういう需要が拡大したのを、私が一冊目の本を出した頃に感じました。中華粥が最初にバズって驚きつつも、やっぱり来るなと思った」


SNSでバズった「本格魚介中華粥」

届けるべき人に、本当に届いているか?


活動の幅が広がる一方で、長谷川には悩みもあった。

「レシピを届けるべきところまで、本当に届けられているのか」

彼女のレシピは、スタンスを崩さないがゆえに、合う人と合わない人がはっきり分かれる。従来の活動では、すでに合う人たちには十分に届いていた。だが「お互い合わないよねって思いあってた人」には届いていなかった。

「全然合わないっていうご批判も承知の上、覚悟の上で。でも多分合わないよねとお互い思っていた人の中に、きっと私の料理で解決できることが実はあったみたいな人が、絶対たくさんいると信じている」

この課題を解決するために、彼女はYouTubeとポッドキャストという新しいメディアに挑戦した。X(旧Twitter)や料理雑誌、料理番組では届かない層へのアプローチ。「もうちょっと自分で攻めないと、広がるものも広がらない」。この言葉には、受動的に仕事を受けるだけでなく、能動的に発信していく決意が込められている。

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