5年間の苦闘、そして行列店へ

第一号店の渋谷店
渋谷に七宝麻辣湯の1号店を開いてからまもなく19年。しかし、「最初の5年ぐらいは全くお客さん来なくて、ものすごく厳しかった」と振り返る。
「普通の飲食店の人だったら5年も店が流行らないとやめると思うんですね。早い人だと半年も経たないうちに撤退を決断する」
なぜ続けることができたのか。石神はこう語る。
「僕がゼロから考えたものだったら、僕の考えが間違っていたと思って5年も引っ張らずにやめたと思います。ただ、中国、シンガポール、マレーシアという同じアジア圏でこれだけ流行っているものが、日本でだけウケないはずはないと信じていました」
5年後に赤坂で2号店を開き、その半年後ぐらいに急に客足が伸びた。長い苦闘の末に、麻辣湯が新しい食文化として日本に根付いた瞬間だった。1号店のオープンから約19年の歳月を経て、今では若い人を中心に行列ができる人気店となった。
昨年からは通販商品「おうちでチーパオ」のネット販売をスタートさせている。店に近い味を家庭でも再現できると好評だ。
個人の好みに合わせて具材をカスタマイズできる楽しさ、30種類以上の薬膳を使用したスープは健康的で、そして何より、今まで日本人が体験したことのない「痺れ」という新しい味覚体験が麻辣湯の魅力となっている。
食べる側と作る側、両輪の実績
「神の舌を持つ男」と呼ばれることについて、石神は冷静に分析する。
「ワインのブラインドテイスティングも趣味なのですが、そちらでも安定して成績を残せていますし、味を作る側としても麻辣湯の分野で一定の評価をいただいている」
石神がワインに惹かれたのは食事との親和性とともに、ブラインドテイスティングという競技の奥深さゆえだった。見た目、香り、味わいから自分の感覚だけでブドウの品種や生産国を言い当てる。日本ソムリエ協会が主催する全国大会で3年連続決勝進出し、昨年は全国3位。
「多い時は一日に200杯ほど口にすることもあります」という凄まじい訓練量。ワインだからこそ可能なトレーニングだと石神は言う。この分析力が、麻辣湯を日本に根付かせる際の武器となった。
味わう側、作る側、それぞれに特化した人はいる。しかし両方の分野で結果を出している石神は稀有な存在だ。
生まれ持った才能なのか問うと、「生まれ持った部分もあるのかもしれませんが、それより日々のトレーニングが大事ですね」と言い切る。
その成果は今や、一発で味づくりができるほどの域に達している。

