
同展は、印象派の作品が数多く収蔵されるパリ・オルセー美術館から日本へやってきた約70点の作品とともに、国内外の重要作品も加え約100点を展示。オルセー美術館の印象派コレクションがこの規模で来日するのはおよそ10年ぶりとなる。

当時の美術界やヨーロッパのモードや、作品に取り込んだ生活や表現技法、初期の印象派画家たちの興味関心やその変遷を、「室内」という視点を軸に辿る内容となっている。これまでの印象派への固定観念が揺さぶられる展示内容や、内覧会に登壇したアンバサダーの上白石萌音さんのトークセッションの模様をお届けする。
■「室内」という視点から辿る印象派の画家たちとその時代
第1章は、「室内の肖像――創作の空間で/モデルを映し出す部屋で」。肖像画と聞くと多くの人がイメージするであろう「王侯貴族が単独で描かれた肖像」ではなく、上位階級の日常の中の肖像が描かれた作品が多く展示されている。

19世紀のヨーロッパで絵画の肖像画が“売れ線”となった当時の背景から、後に印象派を代表する画家たちも生活空間を切り取った肖像画を題材に選んだ。作品からは、題材の日常性をはじめその後の印象派の絵画につながるテーマなどとともに、印象派初期の萌芽を感じ取ることができる。

フレデリック・バジール《バジールのアトリエ(ラ・コンダミンヌ通り)》は、ルノワールと共有していた自身のアトリエで、マネやモネといった同時代の画家や、小説家のエミール・ゾラら同時代の作家の姿が描かれていると言われる。立ちながらの会話や、一人ピアノを弾く男性など、思い思いの過ごし方を捉えた画からは自由で開放的な雰囲気が伝わってくる。

日本初公開となるエドガー・ドガ《家族の肖像(ベレッリ家)》 は、フライヤーや展覧会図録の表紙にも選ばれた注目作。交わらない視線やどこか冷ややかな表情、その一方で見切れた犬や調度品がもたらす日常性が絡み合い、肖像の中に家族というものの複雑な関係性を想起させる。本章では、描かれた人々だけでなく、その佇まいや室内の情景が、往時の生活や精神性を物語る作品が多いのも見どころと言えるだろう。
第2章「日常の情景――気晴らし、夢想、親密さ」では、前章にもあった日常性がさらに色濃く投影された、趣味やプライベートの姿をモチーフにした作品がそろう。

エドゥアール・マネ《ピアノを弾くマネ夫人》、エドガー・ドガ《ピアノを弾くディオー嬢》、ギュスターヴ・カイユボット《ピアノのレッスン》、そしてピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》と、ピアノを弾く女性を描いた作品は、共通する時代性を強く感じさせ、そのことがそれぞれの作品や作家の個性や眼差しの違いを強調する。


読書や編み物、入浴といった現代にも通じる題材は、美術に距離感を感じる人ほど親近感を覚えるように思えた。

第3章では「室内の外光と自然――取り込まれる風景、植物」と題し、屋内・屋外の境界の淡いを取り込み、室内を拡張して描いた作品や、植物を題材とした静物画、また日本美術の流行を反映した作品が展示されている。


アルベール・バルトロメ《温室の中で》のように、作品と並んで絵画の中で描かれた夫人がまとうドレスの実物も展示されたものや、ジャポニズムを強く取り入れた平皿・花器といった、絵画に留まらない展示・作品が多い章でもある。それぞれの作品だけでなく、印象派の作家たちの変遷や、当時のモードを特に感じさせるエリアとも言えるだろう。


第4章「印象派の装飾――室内への新しいまなざし」では、19世紀後半に再評価が進んだ「装飾美術」が印象派の作品の中にどう影響していったかについて作品を通して感じることができる。


タペストリーのような壁面装飾や室内空間の壁面のために制作された絵画、調度品や邸宅の設計図など、印象派の作家たちがいわば産業的な作品にもコミットしていった足跡を追うような展示は、本展の最終盤に現れるギュスターヴ・カイユボット《ヒナギクの花壇》や、クロード・モネ《睡蓮》といった作品で、いわゆる「印象派の絵画」で想起するイメージと重なり合う。室内をテーマに各章を辿ることで、印象派の作品を理解する別の視点を取り込めるような内容だ。


■生活を取り込んだ作品群に「すごく共感」アンバサダーの上白石萌音さんが語る見どころ
開会前日に行われたメディア内覧会には、本展アンバサダーを務め音声ガイドにも出演する上白石萌音さんが登壇。展覧会の感想を訊かれた上白石さんは「まず一番に思ったのが、絵との親しみやすさでした」と話す。

「時代が変わって、暮らしの様式は変わりましたが、生活の営みの本質自体はあまり変わっていないので、絵を見ているうちに『ああ、こういう瞬間があるよね』『わかるわかる』とすごく共感している自分に気づきました。また、(作品に描かれた)自宅の中にいる人の、よそ行きではない表情がとても魅力的に映りました」
トークセッションは、5月に行われた記者発表会の際に上白石さんが注目している作品の1つに挙げたピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》の前で行われた。実物を目にした上白石さんは「ルノワールの描く人物って肌や髪が本当になめらかで、私はいつも女神や天使のようだな、と思うんです。人物の神々しさと、その周りにある椅子やピアノ、そうしたものと私たちとの親しみ、その2つが共存している作品で、やっぱりとてもおもしろいなと思いました」と、あらためてその魅力を語った。

また、一番楽しみにしていたというクロード・モネ《アパルトマンの一隅》については「画像で見るよりも静かな衝撃みたいなものが強くて。この距離で見ても吸い込まれていきそうな独特の魅力と、今まで私が見てきたモネの作品にはあまりなかったような空気感があって、この作品をこの目で見たことをずっと忘れないだろうなと思いました」と感動を表現した。
上白石さんは展覧会の来場者に向けて「人の居住空間には独特の空気感、趣があるんだなと感じました。そこには生活の匂いがあったり、人々の思案があったり、交流があったりして、それが織りなす空気を印象派の画家ならではのやり方できゅっと閉じ込めた作品が本当にたくさん来日しています。そして、その作品の周りに当時の空気が漂っているような感覚も覚えました。ぜひ、その空気に触れに上野に足をお運びいただけたらと思います」とメッセージを送った。
■音声ガイドやオリジナルグッズも注目

会場では、印象派画家たちが描いた室内をめぐる物語を声優・上白石さんが案内する音声ガイドも実施。会場レンタル版は貸出料金650円(1名1台。支払いは現金のみ)で、アプリ(iOS/Android)配信版「iMuT いつでもミュージアム・トーク」を使用する際は配信料金700円で利用可能だ。
また、展覧会グッズにもオリジナル商品が多数登場。フランスを代表するドガの《家族の肖像(ベレッリ家)》に着想を得たヴァンドームクリップ(2万900円)やルノワール《ピアノを弾く少女たち》をデザインしたシュニール織ハンカチ(3300円)、ルノワールの《ピアノを弾く少女たち》をあしらった本展オリジナルの缶が印象的な「ヴォヤージュサブレ」(2300円)など、いずれも展覧会の体験をより思い出深いものにすること間違いなしだ。
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