こんなにも紅白歌合戦の出場者が気になった年はなかった|カレー沢薫

こんなにも紅白歌合戦の出場者が気になった年はなかった|カレー沢薫

先日紅白歌合戦の出場者が決定した。

今年私の漫画がドラマ化した話は一世紀分していると思うが、その主演を務めてくれた方が司会をするというのは以前から発表されていた。

さらにその共演者の方も出場するのではと言われていたので、固唾なる固形だか液体だかわからない物質をガブガブやりながら出場者発表を見守っていた。

結果めでたく出場が決定したのだが、紅白出場者のことをこんなに気にしたのは生まれて初めてである。

推しが歌手活動をしている人は毎年こんな緊張感を味わっているのかと思ったが、確かに我々とて毎年FGOの水着キャラ発表に一喜一憂しているので、オタクは何を推していようが何かの発表に気管を詰まらせているものなのかもしれない。

しかし、紅白歌合戦への出場を栄誉と思うかは人による。

日本放送局と玄関先で3時間の攻防を繰り広げるほどのアンチでそんなとこがやる歌祭りなんか出場できるかというアーティストもいるかもしれないし「大晦日に働けとか我々に労働基準法が適用されないと思って舐めているのか」という理由で。オファーがあっても断る人もいるだろう。

もしかしたら、水着だって、自分の推しを「ほとんど紐の刑」に処したくないし、本人が嫌なら断ってくれと思っているファンもいるかもしれない。

私も土方さんの夏衣装は見たいが、本人が断ったなら仕方がない。

しかし、紅白出場は未だに喜ばしいことのようで、紅白出場を目標だと言っているアーティストもいる。

今年は、3次元もいいなと思った年だったが、やはり私には次元1本分高度な世界だとも思った。

もし紅白出場を希望する推しが紅白出場できなかった場合「自分の推しが紅白出場できないのはおかしい」と、憤るならまだマシだが「アレが出場できて推しが出場できないのはおかしい」と言い出し、それが他人のXおすすめ欄とかに登場してしまいそうな気がする。

もちろん二次元でも「なんであいつのアクスタが出て俺の推しはクリアファイルだけなんだよ、俺の推しも自立させてくれよ」みたいなことは思わないことはない。

しかし、その負の感情を向ける相手が非実在か実在かではソウルジェムの濁り方が一段違うような気がする。

これ以上のモンスターにならないためにも3次元はほどほどの距離で応援していきたいと思う。

だが、紅白出場者のことをこれだけ気にしたのは生まれてはじめてだが、紅白歌合戦自体を気にしたことは以前にもある。

私は、漫画もエッセイも両方さくらももこ先生の影響ではじめている。

そして現在、さくら先生と同じく漫画家兼エッセイストなので、トヨタに憧れて、トヨタ下請けのネジ工場で使われている脚立のネジ工場勤ぐらいの夢はかなったといえる。

影響を受けたのはさくら先生だけではなく、その代表作であるちびまる子ちゃんにも大いに影響を受けている。

ちびまる子ちゃんの話の中で「大晦日に紅白歌合戦を見る回」というのがあったのだ。

今思えば、一般家庭が大晦日にそば食って紅白を見るだけの話をエンタメとして成立させているのがすごい。

子供というのは自分の好きなキャラの真似をしたがるものだ。今のキッズでもかめはめ波を撃とうとするらしいし、子供がクレヨンしんちゃんの影響を受けてしまった親は不運であった。

さくら先生とちびまる子ちゃんの話になるとつい、そこから漫画家を目指した話や、飲尿をしようとした話を優先してしまうが、他にも真似はたくさんしている。

ちなみにちびまる子ちゃんに「飲尿回」があったわけではない、さくら先生が健康法として一時期飲尿をしていた影響だ。

ちびまる子ちゃんが、大晦日をエンジョイしているのを見て、私も同じような大晦日の過ごし方をしたいと思ったのだ。

しかし、当時も二次元にしか興味がなかったため、当然芸能知識など皆無なのだ。

ちびまる子ちゃんでも「最初のアイドル歌手などの時間帯は良いがスーパー演歌タイムで寝てしまう」と、子供の紅白視聴あるあるが書かれていたが、私はアイドルゾーンすらよくわからなかったのだ。

知らない人たちと知らない人たちが紅白に別れて戦っている様はエイリアンVSアバターと同じ構図であり、寝ずに最後まで視聴するのは無理であった。

よって、出場者や内容にも興味をもって紅白を見るのは、本当に始めてなのでとても楽しみだ。

しかし「寝ずに最後まで見られるか」は今も残る課題である。

子供にとって大晦日というのは「12時まで起きていても怒られない日」であり、それも楽しみの一つだった。

しかし中年になった今、そんなワクワク感は消え失せているし、むしろ起きていることより寝ていることを怒られるようになってしまった。

当然最近は大晦日だからといって年越しまでわざわざ起きたりしないし、昨日は22時に寝た。

だが逆に言えば、12時まで起きていられるか「チャレンジ」する機会を与えられたとも言える、

子どものころとは違い、起こしてくれる親もいなければ寝床に運んでくれる親もおらず、最悪床で元旦の朝を迎える危険なチャレンジだが「22時半ごろ自らの足で寝床へ」など、不甲斐ない結果に終わらないよう頑張りたいと思う

 

配信元: 幻冬舎plus

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