がんが大きくなっても歩けるなら死なない
がんはどんどん大きくなって、転移する腫瘍です。がんが大きくなるスピードは、千差万別です。腫瘍によっても違いますし、発生する部位によっても異なります。
乳がん、前立腺がんは比較的遅く、膵臓がんは速い傾向にあります。ただし、あくまでも傾向であって、進行の速い乳がんもありますし、進行の遅い膵臓がんもあります。
その時小さながんだったとしても、増殖のスピードが速いと、治療してもあっという間に亡くなる場合もあります。見つかった時に大きくても、増殖のスピードが遅いと、放置していても何年も生きられることもあります。
基本的には、症状が出ていたら進行がんです。進行の速い、転移能力の高いがんにはどんな治療をしても根治は難しく、治る可能性は低いでしょう。ただし進行がんでも、遠隔転移がなく、手術で切除しきれれば再発はなく、治る可能性があります。
このようにがんといっても、発生場所、また腫瘍そのもののタイプがあり、治療してもすぐに亡くなったり、治療しなくても思ったより生きられたりするのです。「余命」の診断が難しいとされるのは、がんという病気のこうした特性によります。
たいていの人にとって、がんは怖い病気です。そして、がんになったら手術や治療をしなければ死ぬと思い込んでいます。
けれど、がんを放置しておいても「大きくなって破裂して死ぬ」わけではありません。
ではなぜ、がんになると死ぬのでしょうか。
がんが大きくなるためには、栄養が必要です。がんに栄養がとられてしまうと、身体は痩せていきます。
食べても、点滴をしても痩せていくのです。がんにエサをあげているかのようにがんは大きくなり、栄養不足の身体はガリガリになります。
まれに、「がんに栄養をあげないために糖質制限する」などという人がいますが、身体にも栄養がいきませんからムダ、本末転倒です。
痩せていくと身体が「省エネモード」になり、動けなくなります。加速度的に身体は老化して、老化の果てに亡くなるのです。がんであっても、結局は老化で亡くなるということです。
これが、治療しなかった場合にがんで死ぬ最大の要因です。見方を変えれば、枯れるように死んでいけるのががんなのです。
僕が、「がんが大きくなっても、歩けるなら死なないよ」というのはこういうことなのです。
いくらがんが巨大化しても、身体が「省エネモード」に耐えられて動けるならば、生きられます。
だから僕は、「生きたいなら歩こう」と言うのです。

医療用麻薬でがんの痛みは簡単に避けられる
がんには、身体の痛みが大きいという問題があります。そこで登場するのが、医療用麻薬です。医療用麻薬を使えば、がんにまつわる疼痛のほとんどがなんとかなります。「痛みを完全にとる」とまでは言えませんが、痛みに苦しんでどうしようもないという状態は避けることができます。痛みを忘れて、日常生活を楽しんでいる患者さんもたくさんいます。
一般的にがんは最後に痛くなると思われていますが、そんなことはありません。実際は徐々に痛みを感じていきます。「最後に痛くなる」と勘違いしている人が多いのは、長らく医療用麻薬を拒否し続け、ずっと痛みを我慢し、我慢の限界に達して初めて医療用麻薬で痛みのコントロールを始めるからです。
痛みを感じたらすぐに使い始めれば、激痛にもだえ苦しむことはほとんどありません。
多くの患者さんが、医療用麻薬を使いたがらないのは、「使うのはもう死ぬとき」だと考えているからです。多くの人は、耳にはさんだ情報から、「医療用麻薬で亡くなった」「医療用麻薬を使うようになったらおしまい」などと思い込んでいます。
しかしまったく間違っています。我慢した挙句、亡くなる直前にやっと医療用麻薬を使ったために、痛みが軽減され眠るように亡くなっただけであって、医療用麻薬で亡くなることはあり得ません。
また、医療用麻薬で中毒になると恐れる人もいます。「麻薬」という言葉からそう思ってしまうのでしょうが、僕は日本で一番多いのではというくらいに処方していますが、中毒になった人を見たことはありません。
患者だけでなく、医療従事者も「医療用麻薬は最後に使う薬」くらいの認識しかない人が多いのが残念です。
痛みは身体を弱らせる大きな要因です。むしろ、できるだけ早い段階から医療用麻薬で痛みをコントロールすることが、寿命いっぱいまで生きるために大切な知恵なのです。
がんは老化なのですから、がんと闘う必要はありません。ただ「がんばって歩く」「医療用麻薬をじょうずに使う」気力と知恵があれば、屈服しなくてもよいのです。

