高血圧は多くの日本人が抱える生活習慣病のひとつであり、放置すると脳卒中や心筋梗塞などの重大な疾患を引き起こす可能性があります。特に自覚症状がほとんどないまま進行するため、サイレントキラーとも呼ばれ、日常生活における予防と管理が欠かせません。
血圧は遺伝や加齢に加え、食事や運動、飲酒や喫煙などの生活習慣によって大きく左右されます。実際、食事の工夫や生活改善による降圧効果が確認されており、薬物療法と併せて取り組むことが推奨されています。
本記事では、高血圧と食事の関係、取り入れるべき食材や献立、さらに日常生活で意識すべき習慣を解説します。

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
北海道大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器専門医・総合内科専門医として各地の総合病院にて臨床経験を積み、現在は大学で臨床医学を教えている。大学では保健センター長を兼務。医学博士。日本内科学会総合専門医、日本循環器学会専門医、産業医、労働衛生コンサルタントの資格を有する。
高血圧と食事の関係

高血圧とはどのような状態ですか?
高血圧とは、心臓から送り出される血液が血管の壁にかける圧力が、慢性的に基準値よりも高い状態を指します。日本高血圧学会は下記のいずれかに該当する状態を高血圧と定義しています。
診察室で測定した血圧が140/90mmHg以上
家庭で測定した血圧が135/85mmHg以上
なお、血圧は1日のなかで変動するため、医療機関で診断する際は、複数回測定します。そして、安静時の測定値が継続して基準値を超える場合に、正式な診断が下されます。
高血圧が続くと、血管や臓器に負担がかかり、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞、腎不全などの疾患を引き起こす可能性があります。
参照:『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)
血圧と食事の関係を教えてください
血圧は、日々の食事内容と深く関係しています。食事で摂る栄養素や塩分の量は、血液の量や血管の状態に影響し、血圧の変動を引き起こすことがあります。なかでも、塩分(ナトリウム)は特に気を付けたい項目です。ナトリウムを多く摂取すると、身体はそれを薄めようとして水分を保持し、血液量が増加します。その結果、血管にかかる圧力が高まり、血圧が上昇します。さらに、ナトリウムには血管を収縮させる作用もあるため、血圧がさらに上がりやすくなります。
高血圧の予防には、食塩摂取量の制限が不可欠です。目標値は個人差がありますが、日本高血圧学会では1日6g未満の減塩を推奨しています。
参照:『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)
食生活によって血圧が変動するのですか?
食生活は血圧に大きな影響を与えます。日本人の平均食塩摂取量は1日あたり約9〜10gとされています。これを1日6g未満に減らすことで、血圧の上昇を防ぎやすくなります。実際、食塩を5g程度減らすことで収縮期血圧が平均4〜5mmHg低下することが報告されています。
一方で、塩分の多い食事を続けると、身体内に水分がたまり、血液量が増えることで血管にかかる圧力が上がります。さらに、血管の収縮も促され、血圧が上がりやすい状態が続きます。
参照:
『令和5年国民健康・栄養調査結果の概要』(厚生労働省)
『Effect of modest salt reduction on blood pressure: a meta-analysis of randomized trials. Implications for public health』(Journal of Human Hypertension)
高血圧に良い食べ物とおすすめの献立

高血圧の人が食べた方がよい食べ物を教えてください
高血圧の予防や改善には、野菜、果物、大豆製品などに豊富に含まれるカリウムを意識して摂取しましょう。
カリウムには、腎臓からナトリウムの排泄を促し、血圧を下げる働きがあります。代表的なカリウムを豊富に含む食材は下記のとおりです。
ほうれん草
ブロッコリー
トマトなどの野菜
バナナやみかんなどの果物
じゃがいも
さつまいもなどのいも類
さらに、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった多価不飽和脂肪酸を豊富に含むサバ、イワシ、サンマなどの青魚やナッツ類は、血管の柔軟性を保ち、血圧の安定に効果が期待されます。
加えて、カルシウムやマグネシウムを多く含む食品も、血管の収縮を抑え、血圧を安定させる働きがあります。カルシウムは牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、小魚(ししゃも、煮干しなど)、豆腐などの大豆製品、小松菜などの青菜類に多く、マグネシウムは海藻類(わかめ、ひじきなど)、アーモンドなどのナッツ類、納豆、枝豆などの豆類に豊富です。
加えて、食物繊維を多く含む玄米、雑穀、きのこ類は、塩分の吸収を抑える効果や、腸内環境の改善にもつながります。
これらの食材を中心に、肉類の摂取を控えめにすることで、より安定した血圧管理が期待できます。
高血圧の人はどのような献立がよいですか?
高血圧の方に推奨されるのは、DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)と呼ばれる食事パターンです。DASH食は野菜、果物、低脂肪乳製品を積極的に取り入れ、飽和脂肪酸や塩分の摂取を控えることを基本とした食事法です。特徴です。こうした食事を継続することで、血圧の低下が期待できます。さらに、減塩を組み合わせたDASH-sodium食は、より高い降圧効果が期待できます。
実際の献立例は以下のとおりです。
朝食:オートミールと果物
昼食:鶏むね肉と野菜を中心としたサラダ
夕食:青魚の塩焼きと雑穀ごはん、減塩味噌汁
味付けにはハーブ、香辛料、酢や柑橘類などを活用することで、塩分を抑えながら満足感をえられます。これらの献立を参考に、食材の種類を増やすことで栄養の偏りを防ぎ、継続しやすい食生活につながります。
高血圧の人が避けた方が良い食べ物や飲み物を教えてください
まず避けるべきは、塩分が多く含まれている食品です。特に下記の食べ物は塩分量が多く、血圧に悪影響を及ぼす可能性があります。
漬物
ラーメン
インスタント食品
加工肉(ハム、ソーセージ)
また、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む揚げ物や菓子パン、ハンバーガーなどのファストフードは、動脈硬化を進行させ、血管障害のリスクを高めるため控えましょう。
糖分が多く含まれた清涼飲料水やエナジードリンクにも注意が必要です。糖分を過剰に摂ると、血液中の糖が増えてインスリンというホルモンが過剰に分泌されます。これが繰り返されると、肥満や内臓脂肪の増加を通じて血管の働きが悪くなり、結果的に血圧が上がりやすくなります。
一方、コーヒーなどカフェインを含む飲み物は完全に避けるべきというわけではありません。ただし、飲み方には気を付ける内容があります。カフェインには一時的に血圧を上げる作用があるため、測定前や就寝前に飲むことは避けましょう。
一方で、1日1〜2杯ほどのコーヒーを楽しむ程度なら問題ないとされています。むしろ、コーヒーに含まれるクロロゲン酸というポリフェノールには、血管をしなやかに保つ働きがある可能性も報告されています。ただし、砂糖やクリームを多く入れるとカロリーが増えてしまうので、ブラックや無糖タイプを選ぶのがおすすめです。
なお、こうした食生活の見直しは短期間では効果が表れにくいため、継続することが不可欠です。加工食品や外食を控える、調味料の使用を控えめにする、香辛料や香味野菜、果物の酸味を活用するなど、日常の小さな工夫の積み重ねることで血圧は安定しやすくなります。
参照:『高血圧患者におけるコーヒー摂取:血管機能に与える影響について』(血管Vol.47 No.2)

