ついに職場にまでやってきた
その日の退勤時間、私は職場のビルを出て駅に向かって歩いていた。夕闇が迫り、人通りも多い時間帯だ。街路樹の陰に、見覚えのある男の姿があった。武内くんだった。彼は、スマホを触るふりをしながら、歩く人たちを観察して明らかに誰かを探している。きっと私を探しているんだろう。
少し離れたところで見つけることができたので、私は駅に向かうのをやめて通りのタクシーを拾うことにした。タクシーを止めたその瞬間、振り返ると私を見つけた武内くんが、笑顔で手を振ってこっちにくるところだった。
「すみません!すぐ出してください!」
タクシーに乗り込んだ私は青い顔で運転手に頼み、武内くんに捕まらずにその場を去ることができた。武内くんはまだこっちを見ていたのかもしれないが、怖くて振り返ることはできなかった。
私はパニックになった。もしもそのうち職場に乗り込んできたらどうしよう。かと言って、はまだ直接的な被害(暴行や脅迫)を加えているわけではない。ただ、職場付近をうろうろしているだけ。警察に相談しても、「ただの偶然かも」「様子を見ましょう」と相手にされないかもしれない。
私は誰にも相談できず、外出が怖くなり、毎日怯えるしかなかった。この悪夢を終わらせるには、どうすればいいのだろう。この理不尽な状況を、法や暴力に頼らず、終わらせる方法はないのだろうか―――。
あとがき:日常を奪う、見えない「監視」
この話では、ストーカー行為の手前、という最も対応が難しい段階に入ります。彼はまだ直接的な脅迫や暴力を振るっていません。ただ「偶然を装って」職場付近にいるだけです。この曖昧さが、警察や他人に相談しにくい一番の壁となります。萌子が誰にも言えないのは、彼を刺激して事態を悪化させたくないという恐怖心と、既婚者同士のトラブルを公にしたくないという羞恥心です。彼の執着は、物理的な攻撃よりも、精神的な「日常の安心感」を破壊しにかかっています。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: ゆずプー
(配信元: ママリ)

