インタビューでは、撮影秘話や自身が演じた役柄について、岸井さんの印象や結婚観、さらに最近観たおすすめの映画などを語ってくれた。

■役に共感できたポイントは「限界を超えるまで自分の中で溜め込んでしまうところ」
――結婚後のサチとタモツが家事の分担をしながら子育てをし、時にはぶつかり合う姿がとてもリアルでした。宮沢さんはサチとタモツの関係性をご覧になってどう思いましたか?
【宮沢氷魚】司法試験に合格したサチが弁護士として働くようになり、サチよりも先に司法試験合格を目指して勉強していたタモツは何度も受験を失敗してしまいます。それでも弁護士になることを諦めないタモツは、家で育児と勉強の両立を始めますが、育児ってオムツ替えやミルク、寝かしつけなどすごく大変なんですよね。だから家にいても勉強に集中することは難しい。
でも、サチはタモツが家でゆっくりできていると思っていて、お互いへの不満が募っていく。本当はコミュニケーションをちゃんと取って気持ちを正直に伝え合えていたら、二人はうまくいっていたのかな…と、そんな風に思いました。
――サチも仕事で忙しいのを理由に、タモツのことまで心配している余裕がないように見えますしね。
【宮沢氷魚】そうですね。サチも仕事でいろいろな人と関わってすごく大変だと思うのですが、タモツは自分がいっぱいいっぱいだからサチの苦労をわかってあげられなくて…。二人がどんどんすれ違っていく姿は見ていてつらいですよね。

――タモツに共感できたポイントはありましたか?
【宮沢氷魚】自分はタモツと似たところがあって、例えば「これは僕がやっておくよ」とつい言ってしまい、知らないうちにいっぱいいっぱいになっていることが多いんです。「ごめん、これは今できないからお願いしてもいい?」と素直に言えたらよいのですが、どうしても限界を超えるまで自分の中で溜め込んでしまうタイプで。
きっとタモツは自分の考えや思いを犠牲にしてでも家族を優先したいタイプで、僕みたいにいろいろと溜め込んでしまう人だと思うので、すごく共感できました。

――宮沢さんもタモツと同じようにストレスを溜め込むタイプなのですね。
【宮沢氷魚】ストレス…溜め込むことがあります。言わずに我慢することも多いので、思ったことをなんでも口に出せる人がうらやましいなと思うことがあります。

――思ったことを言えたとしても、タイミングを間違うと余計にこじれたりもするので難しいですよね。
【宮沢氷魚】まさにタモツがそうですよね。普段は言えないからこそ、“今しかない!”というタイミングで「あの時の○○なんだけど…」と切り出すと、「今更なんの話?」と逆にサチを怒らせてしまったりして。同じような経験があるのですごくよくわかります。
二人とも付き合っていたころから少しずつ変化しているのに、それぞれの中で“サチはこういう人”“タモツはこういう人”というのがアップデートされていないんでしょうね。それでどんどん心も離れていってしまうのは悲しいなと思います。
――サチとタモツが言い合いをする姿はヒリヒリとした痛みを感じるシーンでしたが、ご自身の溜め込んでしまった経験も活かして演じられたのでしょうか?
【宮沢氷魚】学生のころは何年かに一度“もう無理!”となって、溜め込んでいた思いを爆発させた経験があるので、その時の自分を思い出しながら演じた部分はあります。でも、怒りを爆発させている姿って客観的に見るとすごくカッコ悪いので、それを人に見せるのは恥ずかしいと感じるんです。なので最近はなるべく溜め込まないように気をつけています。

■岸井ゆきのさんとの初共演「妥協しないプロフェッショナルな方という印象を受けました」
――サチを演じた岸井さんとは本作が初共演になりますが、ご一緒する前はどのような印象を持っていましたか?
【宮沢氷魚】岸井さんの出演作は以前からチェックしていて、どの役柄からも彼女の優しさや温かい人柄が伝わってきました。本作のクランクイン前に、たまたま岸井さんと共演したことのある知り合いと会う機会があって、その方から「彼女、優しくて真っ直ぐな素晴らしい俳優さんだよ」と聞いていたんです。
そのあと、リハーサルの日に初めてお会いしたら、想像以上に優しくて真っ直ぐで、真摯に役と向き合ってらっしゃったので、すてきな方だなと思いました。
――岸井さんとお芝居されてみていかがでしたか?
【宮沢氷魚】テストや本番を進めていく中で、ご自身のお芝居に納得いかないことがあると、とことん監督と話し合っている姿が印象的でした。自分が理想とするお芝居のラインを超えるまでは妥協しないといいますか、とてもプロフェッショナルな方だなと。でも空き時間になると、役のスイッチを切って静かに読書されていたので、切り替えがとても上手な方なんだなという印象を受けました。

――サチとタモツの関係性をどのように作っていかれたのでしょうか?
【宮沢氷魚】クランクイン前に1週間ほどリハーサル期間があったのですが、最初はみんなで食事に行ったり、リハーサル室でコーヒーを飲みながら雑談をしたりしてコミュニケーションを深めていきました。そのあとテキストを使ったエチュードや、台本から数シーンをピックアップして演じながら役を少しずつ作り上げていましたね。
この期間に作品全体のトーンを決めて、お芝居の温度感みたいなものをスタッフさん含めてみんなで共有できたのは大きかったなと。岸井さん、監督、スタッフさんたちと一緒にサチとタモツの関係性を自然と作り上げていくことができたので、それはすごくよかったです。

――トイレットペーパーがきっかけで二人が喧嘩をするシーンがありますが、長年一緒に過ごしてきたからこそああいう言い方をするんだなと、映画では描かれていない二人の時間を想像しながら観ていました。
【宮沢氷魚】劇中で描かれているのは、二人が共に過ごした時間のほんの一瞬なので、画面には映っていないサチとタモツの姿を想像していただけたのはすごくうれしいです。実は読み合わせの時に、天野千尋監督が台本に書かれていないシーンを作ってくださって、「もしかしたら二人はこういう時間を過ごしたのかもしれない」と、岸井さんとお芝居を合わせたりしたんです。
そのシーンは劇中には登場しませんが、その読み合わせのおかげでより二人の関係性の解像度が上がりましたし、タモツが思いを爆発させるシーンにも活かされたのではないかなと思います。
――本作を観終わったあと、“結婚とは…?”と考え込んでしまいました。宮沢さんは“結婚”とはどういうものだと思いますか?
【宮沢氷魚】双方のサインをした契約書を役所に提出して、夫婦という形になる形式的なものだと思っています。僕個人の考えとしては、お互いの信頼関係ができていれば形式的な契約は必要ないと思っていて。現代はいろいろな家族の形があるので、ご自身とお相手の希望に沿った形で家族になるのが一番よいのかなと思います。


■宮沢氷魚が最近刺激を受けた映画を語る
――30代になり、演じる役柄も少しずつ変化していると思いますが、ご自身の中でお芝居との向き合い方など変化を感じている部分はありますか?
【宮沢氷魚】最近は主演や重要な役柄をいただく機会が増えてきたので、より一層責任感を持って作品に関わるようになりました。昔は勢いでできてしまう部分もありましたが、今は求められることの難易度が上がっているので、役を深く理解して取り組まないと作品の質を落とすことになってしまいます。
大きなプレッシャーを感じるような役をいただけるのは光栄ですし、期待に必ず応えたいという思いが強いので、出来る限り丁寧に演じることを心がけています。
――最近刺激を受けた映画やドラマがあれば教えていただけますか?
【宮沢氷魚】『レジェンド&バタフライ』でご一緒した大友啓史監督の『宝島』を観たのですが、すごく見応えがあって引き込まれました。終戦後、高度成長期の豊かな時代に、沖縄はまだ米軍統治下にあり、多くの人が苦労していたという事実を意外と知らない方もいらっしゃると思うので、フィクションではありますが、事実を盛り込んで丁寧に描いているところがすごく刺さりました。
劇場の大きなスクリーンで観たことで、当時の沖縄を体感できたので、映画の力をあらためて感じましたし、今この時代に見るべき作品だなと思いました。

――映画は映画館で観るのと家や移動中などに観るのとでは没入感が全然違いますよね。
【宮沢氷魚】没入感も違いますし、大きなスクリーンだと表情やセリフの言い方の変化など細かいところまで気づけたりするので楽しいですよね。配信も便利なのですが、観たい作品はなるべく映画館で鑑賞するようにしています。留学していた時も現地の映画館によく通っていました。
――最後に、映画館の思い出があればお聞かせいただけますか?
【宮沢氷魚】シリーズ何作目かは忘れてしまったのですが、子どものころに『踊る大捜査線』を映画館に観にいったらほぼ満席で最前列しか席が空いてなかったことがあって。普段から車や船など酔いやすいタイプなので、開始早々に酔ってしまい、ロビーで少し休憩してからまた劇場内に戻ったのを覚えています。
鑑賞中は内容が頭にまったく入ってこなかったので、今後二度と一列目では鑑賞しないとその日心に誓いました。酔いやすい方は、中央より後ろの座席を早めに予約することをおすすめします(笑)。


取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:末廣昂大
◆ヘアメイク:KUBOKI(aosora)
(C) 2025映画『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
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