
■演じた雨音は「現実と物語の狭間にいるような存在」
――現代の「当たり前」が覆されるような世界観が印象的でした。この作品で描かれる世界をどのように捉えましたか?
【蒔田彩珠】最初にお話をいただいたとき、原作小説をいただいたんです。読んでみて、まず「現実離れしているな」と思いました。でも完全にフィクションとも言い切れない、不思議な未来の話のようにも感じて。映像化するとどうなるんだろうという不安はありましたけど、それ以上に楽しみな気持ちが大きかったですね。

――出演の決め手を教えてください。
【蒔田彩珠】川村誠監督と初めてお会いしたときに、「どう撮りたいか」「なぜこの作品をやりたいか」を具体的に話してくださったんです。そのときはまだ出演が決まっていなかったのですが、監督の熱量に惹かれて「ぜひご一緒したい」と思いました。原作や脚本を読んだだけでは映像が想像できなかったのですが、監督の話を聞いて初めて自分の中で映画のイメージが明確になりました。
――今回演じた雨音という人物を、どのように理解していったのでしょう?
【蒔田彩珠】最初は雨音の気持ちをつかむのが難しかったです。撮影に入って、共演者とお芝居を重ねるうちに、彼女の葛藤や孤独をだんだんと理解していきました。雨音の感情は、この映画を観ている人の気持ちにも通ずる部分があって、現実と物語の狭間にいるような存在だなと感じています。

――雨音を演じるうえで、特に意識していたことを教えてください。
【蒔田彩珠】実験都市の楽園(エデン)に行ってからの変化をグラデーションとして見せたいと思っていました。衣装の色も黒から白へと変化していくんですが、雨音自身の心までは染まりきらないと感じていたんです。外見は白くなっていくけど、心のどこかではまだ抗おうとしている。そういったバランスを意識しながら演じました。
■監督が委ねてくれたからこそ、作品や役柄について突き詰められた
――クランクインはどんなシーンからでしたか?
【蒔田彩珠】栁俊太郎さん演じる朔の職場にケーキを持って行って、一緒に踊ったり音楽を聴いたりするシーンでした。最初の撮影があのシーンでよかったです。栁さんと「一緒に頑張りましょう」という気持ちを共有できたので、前向きに撮影に臨めました。

――印象に残っているシーンはありますか?
【蒔田彩珠】エデンで灰を撒くシーンです。撮影中も完成した映像を観たときも、不思議で少し怖い気持ちになりました。空間が真っ白で静かで、でもどこか残酷で…。子どもたちの存在も相まって、強く印象に残っています。
――母親の雫(霧島れいか)とのシーンも印象的でした。
【蒔田彩珠】母親と接するシーンは緊張しました。雨音は感情をあまり表に出さない人物です。けれど、作品内で唯一、一般的とされる常識や価値観に疑問を持っている母親といるときだけは、感情的になるので…。
作品の中の世界では、配偶者=恋愛関係ではないけれど、私自身は一人の人を愛したいと思っているので、母親の気持ちもよくわかるんです。振り返ると、戦いのようなやり取りでした。演じながらもヒリヒリしましたね。

――演じていて特に難しかった部分を教えてください。
【蒔田彩珠】現実離れした設定を、観ている人がリアルに感じてもらえるように演じることです。最初は自分の中でうまく落とし込めなくて大変でした。けれど監督はあまり細かく演出せず、「まずは自由にやってみて」と委ねてくださったんです。それが逆に信頼を感じられて、自分の中でこの作品や役柄について突き詰められました。
――雨音という人物に、自分と似ている部分はありましたか?
【蒔田彩珠】あまりないですね(笑)。年齢的には近いけれど、雨音は自分の好きなものに対しても不安になったり、他人と違うかもしれないと悩んだりする人。私はどちらかというと、自分が好きなものは貫くタイプです。

■同調圧力や「普通であること」について見つめ直すきっかけに
――完成した作品を観て、どんな発見がありましたか?
【蒔田彩珠】私は撮影中にあまりモニターを見ないので、どう撮られているのか知らなかったんです。見すぎると、こっちの角度から撮ってほしいな、なんて意識しちゃいそうで(笑)。基本的にはおまかせしています。
なので完成したときは、新鮮な気持ちで見られましたね。音楽も映像とすごく合っていて、監督がこの作品を通じて伝えたかったことがより明確に感じられました。

――重みのある役柄でしたが、撮影期間中に役のスイッチをオフにする習慣はありましたか?
【蒔田彩珠】役に入ったままだとしんどいので、家ではリラックスできるように心がけていました。たくさん寝て、無心で趣味の編み物をしましたね。
最近、初めてニットを編み上げたんですよ。首は凝りましたけど(笑)、母に見せたら「すごい!」って。母の影響で編み物を始めたので、褒められたときはうれしかったですね。
――作品を通して、「人間らしさ」や「生きること」について考えたことがあれば教えてください。
【蒔田彩珠】自分にとっての普通や当たり前が、実は他人とは違うかもしれない。そんなことをあらためて考えました。自分の価値観を人に押しつけていないかな、とか。映画を通して、当たり前だと思っていたことを見つめ直すきっかけになりました。

――映画の中で描かれた、同調圧力や「普通であること」について、何か感じることはありますか?
【蒔田彩珠】「これが世の中の流れだから」と押しつけられることって、現実の世界にもありますよね。映画の中の世界も、どこか今の社会と通じている気がします。雨音の子ども時代のシーンは、まさにその象徴だと思いました。
――ご自身も周囲を気にすることはあるのでしょうか?
【蒔田彩珠】好きなものは貫くタイプですが、撮影現場で「これ私だけかな」と不安になることは多いです。朝から元気にあいさつすると「浮いてるかな」って思ったり(笑)。7歳で子役デビューしたので、子どものころから大人に囲まれていた影響もあるかもしれません。空気を読みすぎちゃうところはありますね。
――今後こうした哲学的・社会的な作品とどう向き合いたいですか?
【蒔田彩珠】伝えたいテーマが大きい作品ほど、自分の中でしっかり理解してから臨みたいと思っています。今回もそうでしたが、理解したうえでお芝居をして、観る人に丁寧に伝えていく。それが自分の役割だと思っています。
――理解を深めるためにしていることはありますか?
【蒔田彩珠】原作は必ず読みますし、自分が経験していないことは人に聞くようにしています。例えば出産を経験したことがないので、今回のように子どもが登場する作品では、母に話を聞いたりもしました。そうやって少しでも自分の中に実感を持てるようにしています。

撮影=八木英里奈
取材・文=イワイユウ
ヘアメイク=辻村友貴恵
スタイリスト=小蔵昌子
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