連絡が途絶えて1か月後、奈美子さんが突然訪問し「ご飯がない」と弱みを訴える。里美は純粋に心配し、食事を提供したものの…。
突然やってきた友人
奈美子さんから連絡が途絶えて1か月ほど経った昼下がり。インターホンが鳴った時、私は一瞬誰か分からなかった。モニター越しに映っていたのは、久しぶりに見る奈美子さんの顔だった。
玄関を開けて、私は思わずたずねた。
「奈美子さん!どうしたの急に?連絡も全然なかったから心配してたよ」
すると彼女は、妊娠中に私を追い詰めていた時の強い口調とは打って変わって、申し訳なさそうな顔をして、少しうつむきながら言ったんだ。
「ごめんね、里美。実は、お金が全くなくて…。健のご飯はなんとかしてるんだけど、私、ここ数日まともに食べてなくて」
友人の困りごとを無視できなかった
彼女がシングルマザーとして生活が苦しいことは知っていたから、よほど切羽詰まっているのだろうと思った。以前の奈美子さんは、どんなに大変な状況でも、人に対して弱みを見せたり、ましてや「ご飯を恵んで」などと頼み込むようなタイプではなかったからだ。
「え、そうだったの…それは大変だったね。とりあえず上がって。何か食べて行ってよ」
私は、前日の夕食で作ってあった肉じゃがとご飯を温めて出した。奈美子さんはそれをうれしそうに、まるで高級なご馳走のように食べてくれた。
「おいしい…本当においしい。ありがとう、里美。久しぶりに温かいものを食べたよ」
奈美子さんは1人で来ていたので彼女の分だけだったけれど、私は「健くんの分も」と思って、ご飯といくつかのおかずを、ストックしてあった使い捨ての容器に詰めて持たせた。
「またいつでも連絡してね。無理しないで」
そう言って、私は笑顔で彼女を見送った。この時の私は、奈美子さんを心から気の毒に思っていたし、友人として助けられて良かったと、純粋に思っていた。

