音楽番組はもう「オワコン」なのか?日テレ『with MUSIC』“打ち切り”が示す構造的限界とは

音楽番組はもう「オワコン」なのか?日テレ『with MUSIC』“打ち切り”が示す構造的限界とは

音楽番組が抱える構造的課題

 なぜなら、現代において音楽だけの番組を成立させること自体が非常に困難だからです。その背景には、番組の出来不出来だけでは片付けられない、大きな構造的変化が存在していると考える必要があります。

 現状のヒットチャートを見ると、同じアーティストの楽曲が複数ランクインしているケースが目立ちます。たとえば、『Billboard Japan Hot 100』の11月19日付チャートを見ると、Mrs. GREEN APPLEが13曲を筆頭に、HANAが8曲、米津玄師が6曲、back numberが6曲ランクインしています。つまり、この4組のアーティストでチャートの3割以上を占めている計算です。

 Mrs. GREEN APPLE画像:株式会社第一興商 プレスリリースより つまり、「日本のポップスが盛り上がっている」「これで世界に向けて打って出るんだ」と盛り上がる一方で、限られたアーティストによる寡占状態が進んでいるとも言えます。果たして、これをもって音楽シーン全体が活発だと言えるのでしょうか。

 盛り上がっているように見えますが、よく見ると、それは裾野が広がったわけではなく、特定のアーティストのファンが巨大化し、市場を押し広げているに過ぎません。これは日本に限った話ではなく、アメリカでもテイラー・スウィフトがアルバムを出すと、その収録曲でチャートを占めてしまう状況が見られます。

 いずれにせよ、ごく限られたアーティストが実利と注目を独占し、そこに巨大なファンダムが形成されるというビジネスモデルが固定化されつつあるのです。

 そこに、SNSの台頭によってテレビが持っていたライブ感のある公共性も失われつつあります。つまり、テレビで音楽を聴き・観ることに対するリアルタイムの神聖さが著しく損なわれているのです。

音楽は単独で主役になれない時代

 では、推し活とタイパ全盛のご時世において、毎週さまざまなミュージシャンや曲を紹介する音楽専門番組のニーズは、本当にあるのでしょうか?

 むしろ、従来型の音楽番組では取り上げきれないものを、他ジャンルの番組でポップアップ的に紹介したほうが、視聴者の関心を緩やかに広げられると考えられます。

 なぜなら、その視聴者は特定のアーティストを目当てにしているファンではなく、フラットな視点を持つ、良い意味で惰性の観客だからです。「推し」を観ることが目的ではない外部の人たちの感性に訴えかけることができるのです。

 たとえば、ニュース番組に出演したついでにギターを軽く弾きながら歌う、といった演出です。視聴者は流通している音源とは全く異なる魅力を感じるでしょう。もっとも、現状でそれができるミュージシャンがどれほどいるかという問題はあります。

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 ともあれ、そのほうが、ゲスト出演するアーティストのファンが推し活の一環としてしか視聴しない「音楽番組」よりも、はるかに効率的に音楽を届けられると思われます。

 いまや、音楽は他の大枠の番組の一要素として溶け込むほうが、現代の視聴体験にフィットします。音楽が単独で主役になるよりも、さまざまなジャンルや文脈の中に紛れ込んだ「オマケ」として存在するほうが、より生きるのです。皮肉にも、まさに「with MUSIC」の名の通りです。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4



配信元: 女子SPA!

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