恐怖心と戦いストーカー男と対決
次の日、私は万全の準備をして出勤した。スマートフォンは、胸ポケットに入れたままずっと録音状態にしておいた。今日は、武内くんが職場近くにいる可能性が高い曜日だ。
昼休みが終わり、午後の仕事に入る直前。ビルのロビーで、案の定、彼が立っていた。
「萌子ちゃん!」
彼は、待ち伏せが成功したとでも言いたげな、ねっとりとした笑顔で近づいてきた。私は目を合わせず、通り過ぎようとした。だが、彼は私の腕を掴んだ。強くはないが、逃がさないという意思を感じる掴み方だった。
「ねえ、急にやめて寂しかったよ、英会話」
「離してください、武内くん」
「ちょっと見ない間にまたかわいくなった?本当に目の毒だよな~」
「……」
「イヤな思いさせたならごめん!夜、メシでもいかない?奥さんには適当に嘘つくからさ」
私は恐怖で身体中が震え、涙が出そうになった。しかし、胸ポケットの中のスマホを意識し、顔は強ばらせながらも、彼の言葉に耐えた。
「ごはんは行きません。もう二度と私に近寄らないでください」
そう言い放ち、力を込めて腕を振りほどき、小走りでビルの中に駆け込んだ。トイレの個室に入り、録音を止めた。武内くんのあの気持ちの悪い声と、私を誘うセリフが、しっかりとデータとして残っていた。恐怖で苦痛だったが、これで決定的な証拠を手に入れた。
私は奥さんのインスタグラムのDMを開き、文章を打ち始めた。
「突然のご連絡失礼します。英会話教室でご主人と再会しました。ご主人とは学生時代の知り合いです。ご主人のことで、どうしても奥様にお伝えしたいことがあります。証拠の音声もあります」
私は、この方法が法的に最も適切な「制裁」であり、そして私をこの状況から解放する唯一の道だと信じていた―――。
あとがき:「被害者」から「戦略家」への転換
萌子が「誰にも頼らず、自分で解決する」という決意を固めた、ターニングポイントとなる回です。彼が最も恐れるのは、自分の欲望が社会的な制裁を受けることです。
そして、既婚男性にとって最大の制裁を下せるのは「妻」という存在です。萌子は、恐怖に震えながらも、冷静に証拠(音声)を確保し、彼の最も弱い部分を突く「戦略」に出ます。この録音は、単なる証拠ではなく、萌子が「被害者」の立場から脱却し、「自ら状況をコントロールする」決意の形となりました。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: ゆずプー
(配信元: ママリ)

