沈黙の中にあった“甘え”
「お父さんの仕事のことも、体のことも、何も聞かなかった。『疲れた?』って聞くだけで満足してたの。もっと話せばよかった。もっと、聞けばよかった」
母は、後悔の念を深く滲ませていました。
「お父さん、無口だったから」と私が言うと、母は「そうね。でも、私もそれに甘えてた。話さなくても通じるなんて、思い上がりだったのかもしれない」と続けました。
思い返せば、父が病気で入院した頃も、母はいつも通り「頑張ってね」としか言っておらず、父も「うん」とだけ答えていました。
その時、お互いにもっと聞きたいことや、伝えたいことがたくさんあったのかもしれないと、私は胸が締め付けられる思いでした。
言葉にする大切さ
「最後くらい、“ありがとう”って言えばよかったなぁ」
そうつぶやいて寂しそうに笑った母の様子が、忘れられません。
それ以来、私は夫との関係を少し変えました。
「今日どうだった?」「ごはんおいしいね」そんな何気ない会話を、以前よりも意識して交わすようにしたのです。
そして、恥ずかしくても、「ありがとう」や「好きだよ」といった大切な気持ちを、きちんと言葉で伝えるようにしています。
母の後悔が、私の“これから”を、少し優しく、そして豊かなものにしてくれた気がします。
言葉にすることの大切さを、改めて教えてもらったのです。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。

