●公衆トイレの写真は何を意味するのか

Cのスマホには、UD(受け子・出し子の隠語)から送られてきたとみられる札束の写真も多かった。数十万円から数百万円まで金額はさまざまだ。またATMで引き出してきた際の明細書も撮影されていた。フィリピン側からすべて証拠写真を送るように指示を受けているのだろう。
Cが関わっていたのはキャッシュカード詐欺だ。カードを騙し取り、暗証番号を聞き出し、ATMで無断引き出しする。一般口座のATM引き出し上限は50万円。そこで複数日にまたがって金を引き出していく。元関係者が説明する。
「カードを奪った日は、まず50万円限界まで。翌朝もう一度引き出すことを"朝抜き"と呼びます。被害者が気づかなければ、預金がなくなるまで取り続けます。UDは引き出した総額から報酬の10%を引いた額をコインロッカーに預けます」
コインロッカーの金を回収するのが"運び屋"で、全国の運び屋から金を集約してフィリピンへ送るのが"金庫"だという。
Cのスマホには、都内の公衆トイレの写真が多数あった。港区や豊島区など場所はバラバラだ。さらにチョコレート菓子の箱の写真も大量に残っていた。
公衆トイレとお菓子──。元関係者がその意味を明かす。
「コインロッカーに入れる現金は裸のままではなく、UDはチョコレート菓子などを買わせ、その空箱に札束を入れてビニール袋に包ませます。そして菓子箱に金を入れたら証拠写真をフィリピン側に送らせます。
別に雇った運び屋をコインロッカーに派遣し、金を集めさせます。運び屋には、都内の公衆トイレの多目的トイレなどに行かせて、トイレの棚などに菓子箱の袋を置かせます。いわば『置き配』です。置かれたら、すぐに金庫が回収します。運び屋と金庫は顔を合わせません」
デパートのトイレを使う組織もあるようだが、このグループは防犯カメラが少ない屋外の公衆トイレを選んでいたという。犯罪の収益金は匿名の人物たちによって、リレー式に運ばれていたのだ。

●UD応募者の自撮り写真
スマホには、免許証やマイナンバーカードを手に自撮りする写真も数多く保存されていた。UDの応募者たちで、20代前半の若い女性から、不気味な雰囲気の50代の男性まで幅広い。背景はすべて自室のようで、本人確認として撮影させられているのだろう。

