高校生の毅然とした態度で平和なムードに
「すかさず私はその高校生男子に駆け寄りお礼を言ったら『余裕っす。自分、無制限プランなんでギガ気にしていないんですよ。母が医療関係でリモート多いから乗り換えたみたいで』と言い残すと、爽やかに去っていったんですよね」その高校生男子の行動に菜穂さんは「まだこんなに若いのに、なんて器が大きくて優しいんだろう」と感動してしまったんだそう。
「ただブチ切れおじさんの行動を注意するだけじゃなくて、ちゃんと助けてあげることで結果的に全てが丸く収まるようにしていました。なかなかできることじゃないですよね? あまりに将来有望すぎるので、この子はどんな大人になるんだろう? と思わず妄想してしまいました」
そして菜穂さんは「それに比べて私は、何もできずに見て見ぬふりをして申し訳なかったな」と申し訳なく思う反面、彼のお陰でとても清々しい気持ちになれました。まるで『北風と太陽』のようなできごと
「童話の『北風と太陽』じゃないですが、優しさや穏やかさの方が、力づくの注意なんかより何倍も相手の気持ちを動かせることって、案外多いのかもしれないなと気づけて。これからは困っている人を見かけたら、私もできる範囲で手伝っていきたいなと思ったんですよね」最終的にあの高校生に笑顔でお礼を言っていたおじさんは、キレて怒りをぶち撒けていたときとは別人に見えました。きっと周りへの申し訳なさや恥ずかしさもあって混乱していた……心底悪い人ではないんだろうなと菜穂さんは感じたそう。
「あの高校生に会っていなければ『うるさいじじぃと鉢合わせして最悪だった』という印象しかなかったと思います。でもまぁ、もうあのおじさんには二度と、自分の思い通りにいかないからといって理不尽に店員さんにキレたりするのは止めてほしいですけどね」と微笑む菜穂さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop

