「風呂キャンセル界隈(かいわい)」という言葉を知っていますか?
疲れたり面倒だったりして「お風呂に入らない」、つまり「お風呂をキャンセルする」人たちという意味で、若い人を中心に日常的に使われています。
個人の習慣として済ませられるのであれば問題ありませんが、職場では他の従業員との接触を避けることが現実的に難しいです。
中には、「風呂キャンセル界隈」をめぐって深刻なトラブルに発展するケースがあるようです。弁護士ドットコムにも次のような相談が寄せられています。
相談者が勤務する会社では、風呂に入らないトラック運転手がいるといい、客から臭いに関するクレームが何度も入っているといいます。
パワハラだと言われないかが心配で、強く注意できていないようですが、「懲戒解雇にして問題ないのでしょうか?」と気になっている様子です。
「スメルハラスメント(スメハラ)」という言葉も浸透しつつある今の時代、こうした問題は誰にとっても無関係ではありません。
風呂に入らない「風呂キャンセル界隈」は、法的な「解雇理由」として認められるのでしょうか。下大澤優弁護士に聞きました。
●「丁寧に健康状態に問題がないか聞き取りを」
──お風呂に入らない従業員を上司が注意することに、法的な問題はありますか。
お風呂に入らない従業員に対し、上司が改善を促すこと自体は問題ありません。ただし、従業員に対する伝え方には十分な配慮をするべきでしょう。
たとえば、他の従業員がいる前で、体臭に関する注意をすることは法的トラブルを招く可能性があります。その場合、対象となる従業員に精神的苦痛を与える事態になりかねないからです。改善を求めるとしても、対象となる従業員とマンツーマンで対話ができるよう配慮すべきです。
また、何の前置きもなく体臭に関する注意をすることも問題です。まずは、対象となる従業員の健康状態に問題がないか等を丁寧に聞き取り、体臭を発する原因を特定すべきでしょう。
●「体臭のみを理由に解雇は難しい」
──相談者は懲戒解雇も検討しているそうなのですが、可能なのでしょうか。
配慮を尽くした上で改善を求めてもなお従業員が対応を拒否した場合、当該従業員を解雇できるかが問題となります。
ただし、結論を申し上げますと、従業員自身が体臭改善の努力を拒否した場合であっても、解雇をすることは難しいでしょう。仮に、就業規則に体臭を理由とする解雇に関する記載があったとして、その事由に基づく解雇が認められるケースは想定し難いです。
理論上は、次のような段階を経ることが考えられます。
(1)体臭に関する改善の提案
(2)改善がなされない場合には配置転換等を検討
(3)それでもなお会社の業務に具体的支障が生じる場合には解雇の可否を検討
しかし、解雇が認められるためには客観的合理的理由と社会的相当性という極めて高いハードルが存在しますから、体臭のみを理由に解雇の要件を満たすことは考えにくいです。

