「外傷性くも膜下出血の治療法」はご存知ですか?医師が徹底解説!

「外傷性くも膜下出血の治療法」はご存知ですか?医師が徹底解説!

外傷性くも膜下出血の急性期における治療法

外傷性くも膜下出血の治療では、診断や手術だけでなく、けがをしてから数週間の「急性期」に、全身の状態を厳重に管理することが非常に重要です。この期間、患者さんは集中治療室(ICU)に入り24時間体制で治療にあたります。

全身管理

急性期の最大の治療目的は、命を守り、出血による脳へのさらなる損傷(二次的な損傷)を防ぐことです。そのために、血圧、呼吸、体温など、あらゆる身体の機能を厳密にモニターします。
特に重要なのが血圧の管理です。血圧が低すぎると脳への血流が不足し、高すぎると再出血や脳の腫れを悪化させるため、適切な範囲の血圧を保つように調整されます。
同様に、呼吸の管理も重要で、血液中の酸素濃度を高く保ち、二酸化炭素の濃度を適切に保つことで、脳の腫れをコントロールします。また、頭部外傷の患者さんでは、出血が止まりにくくなる「凝固障害」が起こることがあり、迅速な薬の投与や輸血で対応します。これらの管理は、ただ単に数値を目標にするのではなく、傷ついた脳の機能を最大限に保護するための治療です。

合併症対策

急性期には、さまざまな合併症のリスクがあります。
出血量が多かった場合に注意すべきなのが「脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく
)」です。これは、出血した血液が脳の血管を刺激して血管が細くなり、脳の血流が低下して脳梗塞を引き起こす可能性がある状態です。
また、脳の表面に損傷がある場合は、「外傷性てんかん」と呼ばれるけいれん発作を繰り返し起こすリスクがあり、予防的にけいれん止めの薬が投与されます。
さらに、長期間にわたって寝たきりになるため、「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」の予防も重要です。廃用症候群とは、寝たきりが続くことによって、筋力が落ちたり、関節が固まったりすることです。
これらの合併症を防ぐため、患者さんの全身状態が安定し次第、できるだけ早くリハビリが開始されます。これを「超早期リハビリテーション」と呼びます。専門の理学療法士や作業療法士がベッドサイドで、寝返りや手足を動かす訓練などから始めます。早い段階でリハビリを始めることは、筋力や体力の低下を防ぐだけでなく、褥瘡(じょくそう:床ずれ)や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)といった命に関わる合併症のリスクを減らす上でも非常に重要です。

外傷性くも膜下出血の後遺症

外傷性くも膜下出血は、出血そのものよりも、合併した脳挫傷やびまん性軸索損傷(びまんせいじくさくそんしょう)といった、他の脳の損傷の程度によって、残る後遺症の種類や重さが決まります。出血が軽微で、他に損傷がない場合は、後遺症なく自然に回復することが多いです。
退院後の生活では、再発のリスクを高める高血圧や不規則な生活習慣を避けるため、定期的な血圧測定、規則正しい生活、禁煙・節酒が重要です。また、手足のしびれや呂律が回らないなど、今までになかった体の変化に気づいた場合は、再出血などの兆候である可能性があるため、自己判断で様子を見ず、すぐに主治医に相談することが不可欠です。
以下に、よくみられる後遺症を挙げていきます。

片麻痺、感覚障害

重症の頭部外傷では、残念ながら身体的な後遺症が残ってしまう可能性があります。脳の損傷した場所によって、手足に麻痺(片麻痺など)や感覚の障害が残ることがあります。
しかし、たとえ後遺症が残ったとしても、リハビリテーションを続けることで、残された機能を最大限に活用し、日常生活の動作を自立させることが可能です。

高次脳機能障害

身体的な後遺症と並んで、あるいはそれ以上に患者さんやご家族を悩ませることが多いのが、高次脳機能障害です。
これは、外見上は健康に見えるにもかかわらず、記憶力、注意力、思考力、判断力、感情のコントロール、社会性といった、人間らしい高度な脳の働きに障害が残る状態を指します。
高次脳機能障害は「見えない障害」とも言われ、周囲に理解されにくいことがあります。例えば、記憶が保てずに同じ話を繰り返したり、感情の起伏が激しくなったり、意欲が低下したりするなどの症状が現れることがあります。これらの症状は、患者さん自身の「自分らしさ」を失わせ、社会生活に戻ることを難しくさせることがあります。一度傷ついた脳の機能を完全に元に戻すことは、現在の医療では難しいとされていますが、長期的なリハビリや周囲の環境調整、ご家族のサポートによって、少しずつ改善が見られることもあります。

外傷性てんかん

その他の代表的な後遺症には、「外傷性てんかん」があります。これは、脳への衝撃による損傷が原因で、けいれん発作が繰り返し起こる病気です。一度発症すると完治は難しいとされていますが、適切な薬の治療によって発作をコントロールすることは十分に可能です。

配信元: Medical DOC

提供元

プロフィール画像

Medical DOC

Medical DOC(メディカルドキュメント)は800名以上の監修ドクターと作った医療情報サイトです。 カラダの悩みは人それぞれ。その人にあった病院やクリニック・ドクター・医療情報を見つけることは、簡単ではありません。 Medical DOCはカラダの悩みを抱える方へ「信頼できる」「わかりやすい」情報をお届け致します。