“アクロバット感”が生む革新性
では、この「イイじゃん」が今年のヒット曲の中でも飛び抜けている点は何なのでしょうか?それは、異なる2つの曲が脈絡もなく接続されている“アクロバット感”です。それは、リズムチェンジや転調など、作曲の技術的工夫では出せないものだからです。
むしろ、音楽を否定するような現代アートに似た乱暴なキュレーションによって、音楽から説明臭さを消し去っています。その乱暴な唐突感こそが「イイじゃん」という曲を特別なものにしているのです。この乾いた暴力性は、カニエ・ウェストの「Bound 2」に通じるものを感じます。
もしかすると、ショート動画全盛の時代に飽きられないために生み出された苦肉の策だったのかもしれません。しかし、そうした時代的制約が、音楽の愉快な側面を新たに開拓したのであれば、それは怪我の功名と言うべきでしょう。
革新は意外なところからやってくる。M!LKの「イイじゃん」は、圧倒的なダークホースなのです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4

