今回は、術後合併症のひとつである「脊髄硬膜外膿瘍(せきずいこうまくがいのうよう)」について解説します。
脊髄硬膜外膿瘍とは、脊髄を取り巻く一番外側の膜である硬膜と脊椎の間に膿が溜まり、脊髄を圧迫する病気です。
脊髄が圧迫されることで手足のしびれや感覚異常などの神経症状・歩きにくいなどの運動障害が現れます。
初期は背中や腰の痛み・発熱といった炎症症状で始まることが多いため、受診や治療開始が遅れてしまうケースもあります。
治療が遅れると、敗血症や髄膜炎を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもある危険な病気ですので注意しましょう。
それでは、後遺症・リハビリについて確認していきましょう。
※この記事はメディカルドックにて『「脊髄硬膜外膿瘍」を医師が解説!放置すれば後遺症が残る危険も!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
脊髄硬膜外膿瘍の予後

死亡率は高いのでしょうか?
脊髄硬膜外膿瘍の死亡率は減少傾向です。しかし、約5〜10%の患者は敗血症や髄膜炎などを発症し、死に至るというデータもあります。一度神経症状が現れると、症状は急激に悪化するのが特徴です。早期に治療を開始するだけでなく、経過観察や状況に応じて適切な治療を受けることが重要です。
脊髄硬膜外膿瘍は完治しますか?
早期に適切な治療が行われれば症状は改善します。しかし、診断や治療が遅れれば、神経症状や運動障害などの後遺症が残る可能性があります。また、麻痺が起きてから36時間以上経過している場合には、手術を行っても症状の改善は期待できません。
後遺症はありますか?
初診時に適切な診断がされなかった症例では、約半数に運動障害が残ったというデータがあります。また、後遺症に関しては治療を始める前の重症度が大きく関連しているようです。治療を始める前の神経症状が軽いほど、後遺症が残る確率は低くなります。逆に、診断や治療が遅れ、すでに神経症状が進んでいる場合には後遺症が残る可能性が高くなります。
リハビリについて教えてください。
手術を行った場合は、術後早い段階でリハビリを開始するのが一般的です。術後間もない時期には安静を保つ必要があるため、ベッドの上で関節可動域訓練や呼吸機能訓練などがメインです。安静の制限がなくなれば、起立訓練や歩行訓練などを進めていきます。リハビリは、患者さんそれぞれの状態に応じて理学療法士とともに行います。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
脊髄硬膜外膿瘍は、症状が腰や背中の痛み・発熱のみで、早期に治療を開始すれば予後が比較的良好です。しかし、手足のしびれや感覚異常といった神経症状が現れた場合、そこからの病状進行が急激に進んでしまうという特徴があります。筋力の低下による歩行障害・膀胱障害・直腸障害が表れ、さらには完全麻痺となることもあります。一度運動障害が引き起こされれば、たとえ手術を行っても後遺症が起こる可能性も高くなるため注意が必要です。そのため、早期診断・早期の治療開始が何よりも重要だといえるでしょう。
編集部まとめ

今回は脊髄硬膜外腔に膿が溜まることにより脊髄が圧迫され、神経症状が引き起こされる「脊髄硬膜外膿瘍」について解説しました。
初期は、腰や背中の痛み・発熱といった風邪と勘違いしてしまうような症状から始まる病気です。
そのため、症状を自覚していても受診に踏み切れずに悪化してしまうケースがあるようです。
しかし、神経症状が現れるまで放置してしまうと、病状が急激に悪化することもあります。最悪の場合、命にかかわることもある危険な病気です。
腰や背中の痛み・発熱などが現れた場合は、「すぐに良くなるだろう…」と軽視せず病院を受診するようにしてください。
参考文献
脊髄硬膜外腫瘍:16症例の解析
ペインクリニック治療指針改定第7版第Ⅴ章合併症(β版)(日本ペインクリニック学会)

