
コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、自覚のないまま多くの女性から好かれ、職場で密かに人気を集めている様子を描いた整形外科医の物語『松岡先生は百合のド真ん中にいることに気づいていない。』(作者・トミコアラさん)をピックアップ。
トミコアラさんのアカウントで11月2日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、多くの「いいね」が寄せられ話題を集めている。
この記事では、作者のトミコアラさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。
■松岡医師が気づかない“人気の理由”

整形外科で働く松岡涼子医師は、丁寧な診察と落ち着いた対応で多くの患者から信頼されている。子どもから高齢者まで好意的に接しており、症状の説明や予防の支援も積極的に行っている。そのため、松岡が担当する日は外来が特に混み合い、女性患者が多い傾向がある。
同僚たちは、松岡の真面目な仕事ぶりや、不意に見せる柔らかい表情を魅力として挙げるが、本人はその人気に自覚がない。周囲が驚くほど注目を集めている状況の中、松岡は日々の診療に集中しているだけで、特別な意識は持っていなかった――。
物語を読んだ人からは、「最高です…尊いです」「不意にイチャついちゃうの可愛い」「素晴らしい」など、反響の声が寄せられている。
■『人との関係性を重視する百合』を描きたい

――本作を創作したきっかけや理由について教えてください。
私は多職種と連携しながら医療現場で働いてきましたが、医療スタッフが目の前の患者さんと向き合い、人の優しさやすれ違い、支え合う瞬間を数多く目にしてきました。
その“温度”は『人との関係性を重視する百合』と親和性があると感じ、物語として描きたいと思ったことがきっかけです。
また、数年前に私の作品を読んでくださった方から「生きることに絶望していたが、あなたの作品を読んで“もう一度生きたい”と思えました」というメッセージをいただいたことがありました。
その言葉はずっと胸に残っていて、「人の想いが誰かの支えになることがある」という事実を教えてくれました。途中で仕事が忙しくなり創作から離れていた時期もありましたが、今年6月に創作を再開した理由の一つに、そのメッセージを思い出し、“もう一度描きたい”と思えたことがあります。
――キャラクターはどのように生まれたのでしょうか。
キャラクターたちは、医療現場で出会ってきた人々の“価値観”や“人柄”を組み合わせて形作っています。
ビジュアルは「職種らしさ」、性格は「その職種が持つ強さや人生観」を反映しています。
松岡涼子は、明るさとストイックさを併せ持つ整形外科医で、患者さんには真摯に向き合い優しいのに、自分の感情には目を向けない——そんなギャップを持つ人物として生まれました。
森さん、水野さん、富田さん、夢子先生…
それぞれの“医療職としての優しさのかたち”を軸に作っています。
――作画のこだわりや見どころを教えてください。
医療現場の“空気そのもの”を崩さないことを大切にしつつ、専門的になりすぎず、読みやすさとのバランスも意識しています。
例えば専門的な話でなくても、
・姿勢、目線、関わり方などの「職種特有の仕草」
・忙しさの中でふと生まれる柔らかい瞬間
・人に触れる職業だからこそ生まれる心と体のバランス
百合作品としての“静かな揺れ”を丁寧に描くため、表情・余白・コマの密度にもこだわっています。
実際、私の作品を読んでくださる方の中には医療従事者の方も多く、「こういう職場で働きたい」「現場の雰囲気がよく伝わる」といったお声を頂けることがとてもありがたく感じています。
一方で、医療現場は繊細な場所でもあるため、過度に専門性を描きすぎると不快に感じられる可能性もあるのではという思いもあり、現場への敬意を大切にしながら“物語として心地よく読める範囲”を意識して描いています。
――特に思い入れのあるシーンがあれば教えてください。
松岡先生は、人と関わる時に笑みを絶やさないようにしています。病気だけではなく『その人自身』を見ようとする姿勢が、患者やスタッフに好かれる理由として伝わると嬉しく思います。
1話目では、松岡先生が患者さんに向ける微笑みを見てもらえるとありがたいです。その反面、誰に対しても変わらない平等さはどこから来ているのか——。
この作品全体が持つ“優しさと痛み”を象徴していると感じています。
――世界観づくりや物語展開で意識している点はありますか?
医療現場のリアリティと、そこで生きる人々の感情を丁寧に描くことを意識しています。
・職種ごとに異なる価値観
・優しさが生む葛藤やすれ違い
・働く姿勢と人を想う気持ちが交差する瞬間
百合でありながら、人生観や成長を描く物語でありたいと思っています。また、シリアスとギャグのバランスも、読者の方が読みやすい温度になるよう心がけています。
――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。SNSでの応援や感想はすべて励みになっています。過去にいただいた「あなたの作品に救われました」という言葉は、私自身の背中を押してくれました。
この作品が、どこかで誰かの日常にそっと寄り添えたら嬉しいです。
これからも丁寧に描いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

