痰の吸引などが必要な医療的ケア児 親のリアルな日常と想い
現在、幸太郎くんは不随意運動で体が勝手に動くことがあるが、自分の意志で両手や両足を動かすことはできない。
「知的障害もあり、物事の把握ができませんが、話しかけると笑ってくれます」
また、嚥下障害のため、上手く痰を出すこともできない。風邪の時には痰詰まりによって危険な状態になることもある。
ミルクや食事を飲み込めないため、当初は鼻にチューブをつける経管栄養をしていたが、幸太郎くんは栄養剤などが入りにくい体質で、毎週、通院しなければならなかった。そこで、医師と相談し、栄養がちゃんと摂れるように胃ろうを造設した。「我が家では、一家団らんでご飯を食べることを幸せに感じていたので、最初は同じものを食べられないことがショックでした。でも、幸太郎を近未来的な生活をする最先端の子どもと思うようになったことで、受け入れられるようになりました」
幸太郎くんは比較的早い段階で自分に合うデイサービスと出会え、今は週3回通っている。送り迎えが充実しているので、さちさんは幸太郎くんがデイサービスに行っている間に買い物ができるようになった。
自宅には、訪問看護士も来てくれる。福祉支援によって、家族の負担は少し和らいでいるが、メディアなどで医療的ケア児の親が我が子を手にかけてしまったニュースを見ると、胸はザワつくという。「今、幸太郎が必要な医療的ケアは胃ろうへの注入と痰の吸引だけですが、今後、呼吸器が必要になれば、しなければならないケアは増えます。レスパイト(※一時的に日頃のケアを代替してくれるサービス)やショートステイなどを最大限に使って、自分を労わりながら向き合っていきたいです」
医療的ケア児の親が抱える「未来の不安」
医療的ケア児の親にとって一番の不安は、自分たち亡き後の未来。きょうだいに介護は任せたくないけれど、施設で暮らすことになった時にはつらい扱いなどを受けないように守ってほしい。それが、さちさんの本音だ。「虐待などを心配せず、安心して預けられるよう、今よりもマメに施設の監査がなされてほしいです」
なお、自身の経験を通し、さちさんは出産前の小さな異常を無視しないでほしいと訴える。
「過度に心配しすぎてもストレスになってしまいますが、リスクがある妊婦さんや気になる症状がある場合は、大きな病院で経過を診てもらってほしい。また、産院で産む場合は事前に、緊急事態の対処ができるか確認してほしいです」そして、もし出産後に我が子の障害を知らされたら、「ひとりぼっちじゃない」と思える仲間や自分が笑えることを探してほしい――。経験から出るさちさんのメッセージは、母になる女性たちの胸に響くことだろう。
<文/古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291

