●「猫をもらうみたいに」選ばれた命
育ての母親から聞いた話によると、生みの親は出産後すぐに女性を地元の福祉施設に預けた。そこに子どもに恵まれなかった育ての両親が訪れ、養子として女性を引き取ったという。
「当時、施設には3人の女の子がいて、養母は『自分は色が黒いことで苦労したから、色の白いのをもらってきた』と話していました。まるで猫を選んできたというぐらいの感じで」
実の両親は顔も覚えていない。ただ、生後2カ月以上経って出生届が出された経緯を知り、「おそらく、望まない妊娠だったんだろう」と推測している。
育ての両親は女性におめかしをさせて記念写真を撮ってくれるなど、可愛がってくれた。だが、8歳の時に離婚し、養母に引き取られてからは辛い思い出が多い。「一刻も早く母と離れて暮らしたかった」と振り返る。
●無断で変えられた「誰もが平等にもらえる名前」
特に悲しかったのは、名前を無断で変えられていたことだった。
戸籍には、女性の下の名前が書かれている部分のすぐ欄に、漢字3文字の別の名前が記載されており、上から縦線が付けられていた。
養母に聞くと、生みの親が命名した本来の女性の名前の読み方が、養母の名前と似ていたため、改名したという。
「世界にはすごく貧しい国もありますが、どんな環境のもとに生まれたとしても、誰もが無料で受け取ることができるのが名前です。名前を見ると、『この人の親はこんな思いだったのかな』とかを想像できるじゃないですか。
私にとって生みの親からもらった名前はとても大事なものなんです。それをなんで勝手に変えたのよって。最初に付けてくれた名前をまっとうして使ってほしかった」
女性は社会人になって良いパートナーに出会い、新しい家族を築いた。夫の親族も、女性の生い立ちを「全然気にしない」と言ってくれた。今は「推し活」など夢中になれる趣味もあり、気の許せる友人たちにも囲まれている。
「辛かったことはたくさんあった人生ですが、命があって良かった。誰かが私を生かそうとしてくれたんだと思います」


