【ターナーの人生と代表作】モネと似ている?印象派の先駆け?

印象派の先駆けと言われるワケ――モネとターナーを比べて

ターナーは一般的にロマン主義に分類される芸術家ですが、いわゆる「印象派的な」技術を用いた部分もあります。

自然現象を創造の原動力にしていたターナーは、「光」に強いこだわりを持っていました。ターナーにとって光の反射は単に規則的に広がるグラデーションではなく、雲の形や時間帯、湿度によっても表情を変える自由でのびやかな色彩だったのです。

たとえば先ほど触れた『戦艦テメレール号の曳航』のなかで用いられた太陽側の筆致は、のちに印象派の発端として芸術界を驚かせたモネの『印象、日の出』に通じる部分があると思いませんか?

ウィリアム・ターナー『戦艦テメレール号の曳航』ウィリアム・ターナー『戦艦テメレール号の曳航』, The Fighting Temeraire, JMW Turner, National Gallery, Public domain, via Wikimedia Commons.

モネ『印象、日の出』モネ『印象、日の出』, Monet - Impression, Sunrise, Public domain, via Wikimedia Commons.

もちろん、ターナーの方が繊細であることは、いうまでもありません。注目すべきは、雲や空気に伝わり広がる太陽の光と、水面に揺れる反射です。

「印象派」の呼び名を生んだ(正確には彼の作品が波紋を呼び批判するために用いられた)モネにとって、世界は光でした。そしてそれは、ある意味ターナーにとっても同じだったのだろうと思います。

”世界は光”とは、どういうことか。この世界で私たちが見ているものは、物体である以前に光の反射である。世の中のすべては、光で認識されている。では光とはなにか?―――光とは、色である。

モネが生涯をかけて追求していたのは、色でした。そしてターナーも同様に、しばしば見えている物体の形よりも、吹雪に渦巻く波や、疾走する機関車がまとう空気にフォーカスして作品を作ってきました。

ターナーが描いた『戦艦テメレール号の曳航』からモネの『印象、日の出』まで約30年の隔たりがあります。とはいえ、ターナーが作品批判に対して述べた「その光景がどのようなものかを表現した」という言葉は、「印象を描いているだけだ」という批判を逆手にとったモネのアプローチと近いものがあるように感じませんか?

個人的には、ターナーの作品はまさに過渡期にあるような気がしています。ギャラリーのなかで伝統的で優等生的な絵画に並んで置かれていれば、それはそれでしっくり来る作品です。(一方、伝統絵画のなかに急にモネの作品があれば、周囲と調和しにくく感じられると思います)

ただ、近づいてじっくり作品を見ようと思うと、急に何がなんだかわからなくなる感覚は、印象派を鑑賞するときに似ています。比較で見ると筆致が大胆すぎるため、遠くから見ないと、形がはっきりとわからないという現象です。

自由で大胆な印象派は、ポッと出てきた特殊な芸術スタイルのように思われることもあります。しかし実は、ターナーのような先人たちが少しずつ築き上げてきた土台があるからこそ、19世紀後半に花開くことができたと考えるのが妥当なのでしょう。

まとめ

ターナーはイギリスで絶大な人気を誇る芸術家ですが、モネやドガなどの印象派芸術家に比べると、国外での知名度はそこまで高くありません。しかし、印象派がどのような芸術潮流のなかで様式を確立していったかを語るためには、彼の存在は欠かせないはずです。

作品を鑑賞する際は、「印象派の先駆け」という視点を持って見てみてください。きっと、作品の見え方が変わるはずです。

以上、印象派の先駆けターナーの人生と作品紹介でした!

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