一緒に生きるって、簡単じゃない。映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの×宮沢氷魚インタビュー

一緒に生きるって、簡単じゃない。映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの×宮沢氷魚インタビュー

一人で生きても一人にはなれない

『佐藤さんと佐藤さん』というタイトルには、夫婦という関係の中に“二人の個”が併存しているという確かな手触りがある。どちらも佐藤であり、どちらも別の人間だ。その当たり前の距離が、物語の芯になっている。この映画は、愛の形を美化しない。けれど、それゆえに“愛が息をしている”と感じられる。


 


観終わったあと、あなたの隣にいる人を、少しだけ違う目で見つめたくなる。あるいは、いまはまだ隣にいない誰かを、思い出のなかからそっと呼び戻したくなる。そんな映画だ。では、現実に隣にいる人をさけ、ひとりで生きることと、誰かと生きることの違いとは何か――。


 


岸井さんは少し言葉を探してから答えた。「ひとりで生きても、ほんとうの意味ではひとりになれないと思うんです。どこかで誰かと関わっているし、生活をするってことは、誰かと繋がるってことだから」。宮沢さんはこう答えた。「誰かと過ごす時間って、見える景色が倍になる気がするんです。自分とは違う感性を持った人の見ている世界を、少しだけ覗ける。それが、誰かと生きることの醍醐味、自分の“好き”とか“苦手”の輪郭がはっきりするんだと思います」


 


ふたりの言葉の中に、映画のテーマが凝縮されているようだった。“ふたりでいることは、世界を広げること”――それは、この作品の根っこにあるメッセージのようにも思える。

ふたりの素顔に少しだけ触れる

映画についてひととおり話したあと、部屋の空気がふっとやわらぐ瞬間があった。窓の外に午後の光が斜めに入り、テーブルの上の水がかすかに光る。暮らしの呼吸を確かめるような時間になった。


 


「最近、おうち時間でハマっていることは?」岸井さんは少し考えて、「本を読んでます」と短く答えた。その言葉の背後には、静かなページをめくる音と、誰にも邪魔されない夜の匂いがあるように感じられた。


 


「好きな朝ごはんメニューは?」「おにぎりです。具は鮭」。言葉の響きは素朴だが、まるでその中に朝の光景がすべて詰まっているようだった。


 


「ちょっとした幸せを感じる瞬間は?」「うちの植物が元気なとき。主にフィカスです。フィカスとパキラ……サンスベリアも。朝、霧吹きを一個ずつ」。その声のトーンには、朝の光のような穏やかさがあった。植物に霧を吹きかける時間。岸井さんのそれは、世界と自分をつなぎ直すささやかな儀式なのかもしれない。

宮沢さんは「リラックスタイムは?」との問いに少しの間があって、「銭湯に行きます」と言った。その言葉に、湯気のむこうで誰かと並んでいる風景が浮かぶ。「気づかれないんですか?」と聞くと、笑いながら「気づかれないんですよ」と答えてくれた。


 


「よく使うスマホアプリは?」「ゴミ収集アプリです。収集日や分別のガイドがあって、今日は“燃えるゴミ”って知らせてくれますよ」。几帳面さと、日々の整頓を好む性格が透けて見える。




「ちょっとだけテンションが上がる瞬間は?」「天気予報で雨か曇りなのに、朝起きたら晴れてるときです」。言葉は軽やかで、どれも派手さがない。だが、こういう断片のなかにこそ、宮沢さんならではの“静かな幸福”の素敵な座標があるのだろう。幸せとは大きな出来事ではなく、たいていは何気ない朝の光や、植物の葉を撫でる霧の粒の中にあるのかもしれない。

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