マッチングアプリなどの普及に伴い、既婚なのに独身と偽って女性と交際し性的関係を持つ、いわゆる「独身偽装」が問題となっています。
12月1日には、独身限定の婚活アプリで出会い交際していた男性が既婚者だったとして、女性が貞操権侵害を理由に慰謝料の支払いなどを求めた裁判で、大阪地裁が10月までに、55万円の支払いを命じていたことを読売新聞が報じました。
真剣な出会いを求める人々にとって、相手が既婚者であったと判明したときのショックは計り知れません。
独身偽装の被害を受けた人の中には、「貞操権の侵害」を理由に、裁判を起こして慰謝料の支払いを求める人もいます。実際の裁判例で、どのくらいの金額が認められたのか紹介します。
●自由恋愛の範囲?
恋愛には不確定な要素が多く、別れてしまうこともあります。自由恋愛の範囲として慰謝料請求が認められないものなのか、それとも貞操権、人格権の侵害として慰謝料が認められるものなのか、その境界線はどこにあるのでしょうか。
「傷ついた」ということだけで慰謝料請求が認められるということになってしまうと、あらゆる恋愛関係の終了で慰謝料請求が認められることになりかねません。ですから、慰謝料が認められる場合はある程度限定されます。
個別の事情によるため一般論として断言するのは難しいのですが、慰謝料請求を認めた裁判例の多くで、独身であるという嘘をつくなどして、結婚する気もないのに結婚を前提とした交際をしていることや、ある程度の期間交際しており、複数回の性交渉がある事実が認定されています。
●貞操権侵害に基づく慰謝料請求が認められるには?
独身だと偽って女性と交際し、女性から「貞操権侵害」として慰謝料を請求された事例は古くから数多くあります(例、東京高裁判決[昭和30年〔1955年〕11月11日]、大阪地裁判決[昭和32年〔1957年〕9月9日]など)
これらのケースは基本的に、独身男性だと偽り、結婚を前提として交際し、一定期間(多くは数年間)の交際期間を経た後に既婚者であることが発覚し、結局婚姻に至らなかったケースです。
ただし、あくまでもケースバイケースであり、たとえば先にあげた今年10月の大阪地裁の判決では、報道(読売新聞オンライン、12月1日)によれば、結婚が前提の関係ではなかったとしながら、交際相手を探す人にとって相手の婚姻の有無は性的関係を伴う交際をするかどうかを判断する重要な情報であるとして、独身偽装をした男性に対する損害賠償を認めているようです。
なお、先にも述べたとおり、単に交際したが婚姻に至らなかった、という場合には、自由恋愛の範囲内の問題として、貞操権侵害に基づく慰謝料請求は認められません。

