裁判のやり直しに関する法律「再審法」の改正をめぐり、刑事法を専門とする研究者ら135人が12月2日、法務大臣の諮問機関「法制審議会」で進められている議論に対し、「冤罪被害者にとってパンの代わりに石を与えるものとなりかねない」と強く懸念する声明を発表した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●法制審の議論に専門家から懸念噴出
静岡県の袴田巌さん、福井県の前川彰司さんなど、刑が確定した後に数十年を経て無罪となるケースが相次いでいる。にもかかわらず、冤罪被害者を迅速に救済する制度が整っていないとして、再審法の見直し議論が続いている。
2024年3月には、超党派の国会議員による「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟(議連)」が発足。再審請求する側が、捜査機関の証拠を開示請求できる制度の整備や、裁判所が再審開始を命じた場合に検察側の不服申し立て禁止を盛り込んだ改正案をまとめた。
しかし、これを受けて、当時の鈴木馨祐法務大臣が法制審に諮問した後の議論では、「証拠開示の範囲が狭まる」など、冤罪被害者や専門家から懸念の声が相次いでいる。
●「改正する意味が失われ、むしろ毒薬になるのでは」
刑事法の研究者らが公表した声明は「今回の再審法改正問題の核心は無辜(むこ)の救済のための制度である再審制度が現実には機能不全となっている事実に端を発する」と指摘。
その要因として、
・検察官の裁判所不提出記録の証拠開示の有無・広狭により再審の可否が左右されていること(いわゆる『再審格差』)
・再審開始決定に対する検察官抗告により救済が阻害・遅延させられていること
を挙げ、「改正に関する議論は、少なくともこの2点を是正することを前提とする必要がある」とうったえている。
この日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた元福岡大学法学部教授の新屋達之さんは、こうした法制審の議論の方向性について強い危機感を示した。
「改正する意味が失われていって、冤罪被害者にとってはパンの代わりに石を与えるものではないか。私自身はむしろ、毒薬になるんじゃないかという気もしています」

