まだ知らない野菜が由布院にある

まだ知らない野菜が由布院にある

レストランのためだけの畑で
年間約250品種を育てる





上/ENOWA FARMでは、一流の料理人に愛される京都・石割農園の石割照久さんの指導のもと、野菜作りをしてる。宿泊客は見学も可能 下/故郷のチベットでは母の畑の手伝いをしていたというシェフのタシさん。畑で野菜を見て、その日のメニューを決めていく

緑深い山々に囲まれた、いで湯の街、由布院。オーベルジュ「ENOWA YUFUIN」は、「FARM TO TABLE」の考えをさらに深化させた「FARM DRIVEN (ファームドリブン)」の思想を体現しています。土を作って食材を育て、ここでしかできない食体験に昇華するのです。

ディナーの準備をするシェフのタシ・ジャムツォさんの姿は、太陽が照りつけるENOWA FARMにありました。畑には色とりどりの野菜や果物、ハーブなどが植えられています。タシさんはひとつずつ触り、香りを嗅ぎ、ときにひょいと口に入れて確認し、収穫していきます。「パイナップル」という名前のトマトや、UFOのような形のズッキーニ。真っ黄色の唐辛子に、スーパーでは見かけないツルムラサキの若芽や花。畑は、見たことのない野菜やハーブの宝庫です。みるみる間に、かごは珍しい作物でいっぱいに。なにせ、トマトだけで20種類、ズッキーニは6種類と、年間約250品種もの多品種の作物が育てられているのですから。

畑の野菜はすべて、ENOWAのレストランで提供する料理のためだけのもの。地元の農家が育てていない入手困難な西洋野菜を、自分たちが理想とする栽培方法で育てます。必然的に、畑には種から栽培した珍しい野菜が増えていきました。



  





上/「パイナップル」アメリカの在来種のトマト。平たい形で黄金色に赤い縞模様が入り、中身もその2色が入り混じる。大きいものは1個で900gにもなる。「酸味とフルーティな甘味のバランスが絶妙です」とタシさん 下/「グリーンパンツ」緑色のパンツを履いているような、ツートンカラーのズッキーニ。国内では、種子メーカーが付けたこの名前で知られる。通常の緑のズッキーニより、甘味が強いのが特徴。生でも加熱しても食べられる

「料理に使いたい野菜を、年間計画して育てます。有機栽培をする理由は、故郷のチベットでも、働いていたニューヨークのレストランでも同様に育てていたから。あと、採ってそのまま味見したいから(笑)」

そう言って、「はい」と差し出してくれた超ちびっこのマイクロキュウリをかみしめてみると、わずか1cm大だというのに、みずみずしさと酸味が口の中に鮮烈にはじけました。

「由布院で育てる野菜は、僕が見てきたどの土地より、みずみずしさが格別」と魅力を語ります。さらに、寒暖差の大きな気候は甘味を生み、有機栽培により濃厚な味がはぐくまれる。自分たちで育てるメリットは、良質な素材を入手するためだけでなく、「使いたいタイミングで収穫できる」という点にも。市場に出回るよりずっと早く収穫ができ、お皿にすっぽり収まるサイズのものや、若くやわらかい状態で使えるのです。

一方で、未知の野菜を育てることは、トライアンドエラーの連続。「台風の後は、メニューを全部変えなければいけません」と語るように、天候にも左右されます。それでも、タシさんの野菜づくりへの意欲は旺盛で、新たに標高が100mほど高い山間に畑を作り、作付面積は12反(1万1900㎡)にもなりました。「標高が上がれば、野菜の味も、育てられる品種も変わってきます。新しい挑戦を続けていきたいですね」

静かに情熱を燃やすタシさん。畑も料理も、今なお進化中なのです。



 
配信元: OZmall

提供元

プロフィール画像

OZmall

会員数300万人の女性向けWEBメディア。OZmall [オズモール] は東京&首都圏の女性に向けた情報誌 OZmagazine [オズマガジン] のWEB版です。「心ときめく“おでかけ体験”を一緒に」をテーマに、東京の感度の高い女性に向けた最新トレンド情報を紹介しています。