「どうやって男に絶望せずにいられるのか」を上野千鶴子さんに聞きたくて始めた往復書簡|伊藤比呂美,上野千鶴子,鈴木涼美

「どうやって男に絶望せずにいられるのか」を上野千鶴子さんに聞きたくて始めた往復書簡|伊藤比呂美,上野千鶴子,鈴木涼美

本日、12月3日(水)19時半より、上野千鶴子さん、鈴木涼美さん、伊藤比呂美さんによる、オンライントークを開催します。テーマは、「結婚すること、産むこと、育てること。そして老いること、ケアすること」。開催を前に、昨年6月に開催したお三方のトーク「限界から始まる、人生の紆余曲折について」より、一部抜粋してお届けします。今晩のトークは、4週間のアーカイブつきです。お申込みお待ちしています。

「父親より母親のほうが面白い」と娘に思わせる母の陰謀

上野 冒頭、どうすれば男に絶望せずにいられるのか、という話が出ましたが、『往復書簡 限界から始まる』には父親のことはまったく出てきませんでしたね。私の方でも何かあるのだったらと聞くに忍びなかったから訊きませんでしたけれど、この度、涼美さんは子どもの父親とご結婚なさったそうで。結婚に値する男に出逢われた、ということでしょうか。

鈴木 そうですね。

私の両親は、母が死ぬまで仲は良かったのですが、私の興味はやはり100パーセント母にあって、父親には興味を持てなかった。男はそこまで大層な生き物じゃないというか、女のほうが面白いと思って生きてきたし、1対1でパートナーシップを結ぶほど興味を持てる男性に出会ってきませんでした。気持ちが燃え上がることはあっても、やっぱりこの人も新聞社のおっさんたちと同じだな、と思うことが多くて。

上野千鶴子さんとの往復書簡の依頼をいただいたとき、なんて重い話だろうと一瞬怯んだのですが、「どうやって男に絶望せずにいられるのか」を聞いてみたい、と思いました。上野さんは私よりもさらに前時代的な男性たちを見てこられて、女性教員がほとんどいない東大でフェミニズムを研究されてきた。その上野さんのご意見が聞けるのなら、往復書簡も面白いかも、と。

伊藤 ちょっと、ちょっと。今、涼美さんは「父親より母親のほうがずっと面白かった」っておっしゃったけど、それはお母さんの陰謀よ。

鈴木 ああ、確かにそうですね。

伊藤 子育てにおいて、それぐらいのことはできるわよ。常に近くにいて色々やってやれば、子どもはついてくる。その結果ですよ。

鈴木 面白いことにしろ、怖いニュースにしろ、何かあったときに意見を聞きたいと思うのは、やっぱり母親なんです。

伊藤 と、仕向けられているね。

鈴木 そうだと思います。でも、思わせることに成功しているという意味でも母親のほうが賢い。

上野 私はそうはならなかったけどね。もし両親でなければ、この人たちとはきっと友達にもならなかっただろうなと思って育ったから。父親には溺愛されたけれど、私は娘を溺愛する父を軽蔑していましたし。

涼美さんのお父様は、最後までちゃんと妻を看取られたんですね。

鈴木 はい。母が死んだときの父の様子を通して、パートナーがいることの豊かさは実感したんです。私はこのまま行くと独身かもしれず、長年一緒に過ごしたパートナーがいないまま死ぬとしたら、母が死んだときのような状況は生まれ得ないだろうな、と。

父は、母を看取ったのは確かに偉かったですが、母の死後1、2年は妻を看取った自分はかわいそうだという感じになっていたし、その後は逆に自分の人生はこれからだ、と婚活に邁進し始めて。やっぱり男の人には魅力を感じられません。

上野 となると、男に絶望したという原因のひとつに、父親も含まれていると。

鈴木 生き物として男性は女性に比べて単純でつまらないな、と最初に思ったときの対象は父でしたね。さっき伊藤さんには首を傾げられましたが、私は幼い頃、自分の身体に何かあると母親のほうが先に傷つくという構造がすごく重荷でした。だから痴漢にあっても母親には言えなかった。そういう身体を共有しているような感覚を父に対して持ったことはありません。「父の娘」という意識は元々非常に低かったんです。

上野 「父の娘」になるためには、父を尊敬していることが必要条件ですから。

鈴木 自分も含めて女性も非常に愚かだとは思いますが、男性よりは話していて面白いし、楽しいなと思っちゃう。実は私は男友達も非常に限定的で、真剣に付き合った彼氏もほとんどいなかったので、今の夫と出会えてよかったですが、男性に期待した経験がないんです。

伊藤 私は「女のほうが面白い」とは言い切れないのよね。すっごい面白い女が、ここにもあそこにもいたとか、すっごい面白い男があそこに、ここにいた、というだけで。もちろんその人たちの生き方は、性別に色濃く左右されているけれど、それを「女のほうが面白かったですよ」とは言えないところがある。

上野 友達を選ぶのと、パートナーを選ぶのは、話が違う。この歳になれば、女友達のほうが男友達よりも、いろんな意味で豊かな経験をしていて、はっきり言って話も面白い。そういう一般的な傾向はあるにしても、ヘテロの女がパートナーを選ぶ際には、やっぱり男を選ぶでしょう? でも結婚を選んだら最後、一生他の男とセックスしないわけ? と言いたくなっちゃう。

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昨年のトーク全編は、電子書籍『限界から始まる、人生の紆余曲折について』でお楽しみください。

配信元: 幻冬舎plus

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